5月1日
知らぬ間に土間を水だらけにしてジョロで撒く。中央通りへ行き、紙の大きい鯉を一匹買ってやる、喜ぶ。自動車を、あっちからも来る、こっちからも来るとキョロキョロ大喜びで見る。
もう可也の話が出来る。色々が 天の邪鬼 の時で、来るな と言へば来るし、来い と言へば 来ない。鼻くそが こびり付いて 顔のえらいこと。
お父ちゃん、「もっと大きい鯉を なぜ買ってやらぬ」と、母 叱られる。
5月3日
上座敷の畳を上げて干す。そこへ立沢より、いほ子様、生花の用件にて来る。茶を飲んでいるうち炬燵の灰をいたづらして、座敷の板へばら撒き、果ては畳の上へまで来てばら撒き、庭へ撒き、自らの頭の上から着類から灰だらけ。その挙句、今度は水を汲んで来て ビタビタ 溢して歩く。
5月4日 岡谷市制 十五周年記念祭
朝のうち母一人で買物に出歩いて、掘り出し物の足りない物を求めて来る。午後、兄ちゃん姉ちゃん喜んでお祭りに先へ出、父母、保美と三人で町へ出る。照光寺で蚕霊祭りの善光寺からの尼僧様の御経をみて、中央通りで買物をしてぶらぶら町を見る。保美は何時も父の背中で他は見づ、自動車が来ると大喜び。「来た来た、トラック、ハイヤー」など、そちらばかり夢中で見ている。父の新しいカーキー色の服の背中で、キャラメル・パンを食べ、ベタベタにしてしまふ。
5月5日
三沢より お祖母ちゃん 早々来る。まだ片付かぬ。保美は朝から 「ねんね、ねんね」 と元気が無い。パンを欲しがったが店が開かないので泣く。大急ぎで買って来るが機嫌が悪い。
午後、父と共に中央校へ行き、演芸大会を見に行く。兄ちゃん姉ちゃんも大急ぎ行く。笠置シズ子・小唄勝太郎などの人達だ。
お祖母ちゃんには御馳走も無く、気の毒だ。外へは出ないし、母も外の祭りも見に行けず詰まらぬ。五時過ぎ、支度して出掛けたらザアッと雨なので、お祖母ちゃん そのまま バスで 三沢へ帰る。
母、中央校まで飛ぶが、(父と保美)見当たらず。美佐子が見つけて、先に傘を渡した由。安心して市役所の展示会を見て帰ると、(保美は)淋しくて 家に 父と待って居た。
夜ぐづぐづ言い、なかなか元気にならぬ。仕掛け花火、横河橋に有り、父におんぶされて行く。花火が上がったら びっくりして、美しい方へ背を向けて、「お家へ帰る、お家へ帰る」と嫌がる。母の所へ毟り付いて来るので、おんぶすると、間もなく眠る。父、兄姉三人して中央校へ、演芸と花火を見に行く。風の加減で、よく聞こえて来る。
※ (この後、ノート3頁分空き有り)
5月20日
しらみ十匹、知らぬ間に たかり居て 可哀想なり、驚く。
田中さん方で煎餅いただき、まてに(丁寧に)お辞儀してもらい、他に一枚、むつ子ちゃんが食べ掛けを呉れたら、二間ばかり歩きながら裏表を見て、食べてあるのを見たら 後戻りして、「こんな物いらねえ」と放り投げて返した由。
5月22日
母、お勝手で仕事して来てみると、上座敷の新しく張り替えたばかりの唐紙をビリビリに大きく三分の二位は芯まで破り取ってしまって、あっと思う。
5月24日 皆を並ばせ、写真をうつす真似。
5月15日
起き抜け、新しい新式の釜戸二つ並んだ勝手へ出て行って独り言。
「ヤイヤイ、コレハ!ヤイヤイ!!」 と、じっと見ている。
5月某日
省営バス(国鉄バス?)の車掌のアクセントを上手に覚えて「はっしゃあ・・・」と尻上りの発車を上手に言って、とてもうまい。
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