2月4日
武徳様方へ家中呼ばれて御馳走になったが、一人咳の こんこん出る子が居るので、嫌だなあと思ったが、うつったりしては困ると思ったが、小さいので解らず平気で兄ちゃんと遊ぶ。
2月7日 丸干し 食べてみて、「まずい、いや。」
2月8日
五日の日より咳が出始めた。案じていた通り、うつったのかしら。
七日夜、なかなか眠らず。熱も無し。どうした事か判らず、乳一晩中くわえていたのが不思議に思っていたら、朝起きぬけに「耳いたい」と言って起きるので見ると、耳から一ぱいの膿が出ている。困ったなと思ったが、お父ちゃんも菊沢のおぢ様の御不幸で御留守なので、りっちゃんの家の保健婦やった嫁さんに診てもらふと、中耳炎らしい故すぐ医者に行けとの事。もうお昼十二時半。大急ぎ支度して富士見へ下る。先生が出た後なら困ると大急ぎで行く。日が当たるので、保美の顔も真っ赤だ。ぼくぼく 埃の道を歩いて 二時近く。外出一歩手前の先生に診て戴く。
やっぱり 中耳炎との事。早目でよかったが、ペニシリンを 打って戴く。押さえ付けていて 尻へ打ったので痛い痛い。泣いたが、長泣きは せづ。局へ寄って二時半頃 上るが、もう一歩一歩、母の歩みの重さ。途中何度休んだ事やら。
帰宅五時。今夜は 割合よい元気となる。お父ちゃん、お帰りにならない。
2月9日
富士見へ行く用意していると、お父ちゃん御帰りで、中耳炎の話をしたら驚いて、帰途迎えに来て下さる約束する。
バスで下り、鮎沢さんへ。待って居る間、さんさんと 雪 降り出す。
十一時、途中まで お迎へに来て下さる との事 のみを思い、吹雪の道を一歩一歩、歩むが見えず。その上、買物で重いし、背中は重いし、もう苦しいやら切ないやら、びしょびしょになり乍ら一本松でさんざん待つ。
ゆっくり お父ちゃん下って来て、そこで おぶい返して下さる。家へ帰って咳ひどい。耳の膿、とまる。母、足 病めて眠れず。
2月10日 日曜は殆んど父の膝の上に居る。寒い故ぐづる。咳もひどい。
2月11日
弁当箱の御飯を座敷布団の上にばら撒く。それを足で踏み付ける。踏ませぬ様にしようとすれば、いぢれて喚く。欲が深くなって、本も沢山。みかんも人にやると「ばあか、ばあか」と取ってしまふ。食べても不味いと、何処でも構わず吐き出して、ぷうぷうやる。天邪鬼の真っ盛り。
ゾウ、シカ、イヌ、ネコ、キリン、クマ、ウマ。どんな画でも見分け付く。馬が大好きで馬の画をさかんに見たがる。ラジオのよい音楽に首振り手振り、調子とる
《やすみの発音》
保美・・・やしちゃん。美佐子・・・みやこちゃん。仁・・・いとしちゃん。父・・・おとうちゃん。母・・・おかあちゃん。
2月13日 非常に寒い日
朝、弁当箱に入った御飯をばらばらに、そこら中ちらかしてしまふ。ふきんで御飯を叩いて、ばらばらにする。何とかして片付け様としても、無理に散らばして、その上へ乗って足でくしゃくしゃにする。「いけない」と云ってやらせないと喚いて大騒ぎ。叱ると海苔の壜を母に放り投げる。寒いので、めろめろ母にばか(ばかり)、しがみ付いて居る。
午後、大やへ遊びに行く。紐を持ち、「えんえん、おんもおんも」で行く。日当りの縁側で、惣治と隆坊とで一緒に遊ぶ。たか坊意地悪して貸せぬと、毛を掴まえて離さず泣かせてしまふ。どこまでも掛かって行って、自分の思う通りにしてしまふ。
敬屋おじさまより去年夏に撮ってもらった写真を戴く。家へ帰っても「おんぶ、おんぶ」と三十分も母の背にしがみ付いて泣く。鼻水ばかり出る。
2月14日 雪
今日も朝から寒いので、めろめろ。食欲が無い。鼻が出、咳がひどい。耳を時々掻く。中耳炎がいいのかしら心配になり乍ら、医者が遠いので、つい行く気にならず。引越しの片付けをしようと二階に上って箱に詰め始めるが、めた(滅多矢鱈:どんどん)出してしまって、なかなか片付けにならない。
2月16日
役場へ午後二時よりヂフテリヤの予防注射に行く。富雄さんの母さんに呼んでもらい、行く。外出着に着替える時、「ブーブー見に行くから」 と 云ふと、「ブーブー、キシャポッポ」と云って、よい子で着物を着替へすし、支度をする。お餅を焼いてやって「おいしい?」ときくと、「とてもおいしい」と答へる。
2月17日
朝方、母洗濯していると、しっこ間に合わず衣類ぬらしてしまふ。夕刻どうした加減か、たっつけの中へ(うんちを)まり込んで、変な顔をしていた。父が抱いてみて臭いし手に触るので騒ぎ出した。丁度停電で判らず、電気がついたら あちこちに 一ぱい落ちていて 大騒ぎ。
2月18日
早朝、いも少し(もう少し)寝たい父を、よいしょ よいしょと、頭の布団の上に
腰掛たり、叩いたりして、起こして しまふ。
久しぶりに保美入浴。いやがって 泣いて、なかなか 入ると 云はず。気分が悪いのか、それとも 久しぶりで いやなのか。
2月19日 結婚記念日
保美、各個人個人の物を、はっきり させる。茶碗、着衣等。 「お父ちゃんの、かあちゃんの、兄ちゃんの、みや子ちゃんの、やしちゃんの」、と名を付けて云ふ。頭を刈らせかけて逃げる。
2月21日
昼食時、玉子を欲しがるので一人で待たせて、「玉子いただいて来るね」 と 云って上の家へ買いに行って来たら、縁側へ飛び出して来て、「ある玉子?」と訊く。一人で涎掛を持って来て、掛けてくれと云ふ。食事の後を、食器を片付ける。二言目には「ばかばか」と云ふ。使う処を心得て居て馬鹿と云ふ。
大やへ入浴に呼ばれて行くが、入る時いやがって着物ぬぐのに大いに泣く。入ればよい子でいた。
2月22日
朝方より暴風雨となる。二時より役場に百日咳の注射あるが、余りの吹き振りに行かず。傘を持たぬ吾が子と夫に 心配し続けるが、美佐子も人の傘に入れてもらい帰り、夕刻は止みよかった。 生花会あり。夜、父に子守して戴く。
2月23日
配給に組合まで行くが、路の悪い事。重い二人の体で、ぼくんぼくんと土の中へめり込む。しづかさん家にて昼食いただく。帰りて岩見さんの所へも行き茶のむ。朝、父に「こうもり持って行ったが(方が)いいでせうね」と、母言ふと、直ぐ「こうもり、こうもり」 と云って、飛んで行って父のこうもり持って来て渡す。父嬉しくて、傘不要の天気の様子なれど、保美の好意を受けて持って行く。気が利く事おびただしい。
2月25日
頭を刈る。眠っていたので上の方をやり、後は父ちゃんに抱かれていて、逃げようとして泣く。又刈ると泣き、やめるとケロリとして居る。
御飯の時、「さて、ごはん」。
2月26日
取っ手の付いたニューム(アルミ)の水飲み(コップ)を使ってから、柱の高い、ようよう(ようやく)手の届く所へ掛ける。背伸びして、ようよう掛ける。嬉しそう。
午後二時、役場へ百日咳予防注射に行く。路の悪い事、一歩出せばズブズブと泥の中へめり込む。ボコボコ 穴の所があり、重い体では安心して歩けぬ。小使室でやって戴く。
河原の石を拾ってやって水の中へ、ぼちゃんと落として大喜び。
2月28日
父が学校お帰りになると待ち構えて居て、着類を取ってやり、「ひも、ひも」と帯を取って上げる。炬燵へ当たると早速ひざに行く。空腹の父、箸で食べようとすると、「いい、いい、おけ、おけ」と箸を持たせず、本を見る。とても嬉しそうな父と保美だ。
ラジオを聞き拍子を合わせる。兄ちゃん姉ちゃんの鞄の中の物を、知らぬ間に出してしまい、学校へ行って出そうと見ると、鉛筆など一本も無かったと云ふ。・・・「お馬 沢山ね」、「きれい」、「とれねえ」。
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