9月1日
お盆に撮った写真や歩き始めに撮った写真が、山田写真店より送って来た。
母ちゃん一人は、丸で 変てこに 撮れて がっかり して しまった。
その他のスナップ写真としては、
  《6月7日》 午後四時頃、晴れ間みて
    bP:bQ:bR 保美、初靴歩き
    bS:兄姉二人、リレー選手
  《8月9日》 午後晴天
    bT:保美、瓜畑で だんぶくろ姿、無帽
    bU:bV:bW:保美裸、庭のたらいの中。(1,2)立って(3)座っている。

風呂桶を借りて来て、お父ちゃんの痔の入浴に、一緒に入れて戴く。絵本を見せてくれと せがみ、鶏の所を見て喜んで 「ここ、ここ、ここ。こっこ、こっこ、こっこ」 と云ふ。「うま」、「とと」、「わんわ」、「まり」、靴の事を 「くうくっ」、「まんま」、「しちゃ しちゃ」。
しっこ まりたい(したい)と、きゃあ きゃあ と泣いて 起きる。


9月2日
夜、生花会に行くのに、よく眠っているので、そっと出て行ったら1時間程して起きて、父ちゃんと遊んでいた。我慢の強い子だったのか、あきらめて泣かずに母を待っている。夜中、入浴させる。それでも未だなかなか寝付かない。

9月3日   仁兄ちゃん ごめんね
朝、折角 早起きして 行こうと用意していたのに、小雨で、母の余計な言に、学校の野球の選手なのに行かず、後で聞いたら、雨でもやってしまったとの事。 心を思へば可哀想で胸が張り裂けそう。折角の楽しみにして居たのに、ごめんね、ごめんねごめんね。


9月4日
畳の上で人の顔を見ながら、しゃがんで しっこをする真似をするので「こらッ」と怒ると、面白がってキャアキャア言い乍ら、ちびちびとおしっこやる。何度もあちこちでやる。困った事だが、大人を見て、からかふ心算で、顔を見ながらやる。御飯の入っている茶碗を一人で持ち、食べ飽きると口から吐き出して、ぷうぷうやる。座敷中 ばらばらする。手で掴み出す。零れた上に 足を乗せ、くしゃくしゃに踏み潰して、母が勝手へ入って来て びっくり。げらげら笑って喜んでいる暴君ぶりだ。


9月5日
他人様が来て、縁側で話をしているうちに、おつゆの鍋の中へマッチの軸を沢山入れたり、おつゆを 畳の上へ じゃあじゃあ 零したり、おかぼちゃの汁をベタベタ黄色く、着物へ 引っ付けて 大変な騒ぎ。
歯が出来るらしく、さかんに指や乳に喰いついて、歯の跡をつける。


9月10日
日曜は 賑やかなので 保美 御機嫌だ。人が構ってくれるかと、顔を見ながら いたづらする。「コラッ」と云ふと面白がって、きゃあきゃあ逃げる。姉ちゃんをハタキで叩いて泣いたら尚しっかり叩く。入浴二度。借りた桶で朝から父入浴。祖母に抱かれて、ぬるい湯に長く入る。夜中ぐっすり、よく眠る子だ。


9月11日
朝、目をさますと「しいっ」と指を差しながら起きる。慌ててやってやると、どっさり大便。 大やの縁側の高い所から一人で降りて、とんとん遊ぶ。台風が来る予報ラジオで報ず。午前中はよく晴れたが午後は次第に曇って来る。
ゴム靴を口に咥えて、これこれと言ふ間も無く、歯で一所喰い千切って穴を空けてしまった。 道に在る 重い石を よいしょと 持ち上げて 放り投げる。
足取りが 如何にも しっかりして来る。
夕飯は 美佐子が初めて、お仕掛けしたり 火を焚いて御飯を美味しく炊いてくれた。兄ちゃんは一週間ばかり前、やっぱり やってくれた。


9月12日
兄ちゃんの赤いバットを手に持って、すっかり格好よく手で打つ様子をする。毬を投げてやるとバットを下に放り出して、座敷の炬燵の板の周りを、どんどん一生懸命ぐるぐる走る。すっかり野球の選手だ。皆で大笑いだ。  ふっくりした、この愛らしい手で、おいでおいでをやり、畳の上を叩いて 「ここ、ここ。こいこい。」 と 手招きするので、格子の境を越して傍へ座ってやる父。


9月13日
大やの庭へ遊びに行く。一日二日、天候の良くない風のある日だが、台風も海外へそれたと見えて日当りが好いので保美も嬉しそう。花を毟ったり、胡瓜を毟ったり、大きい石を投げたり、きゃあきゃあ云ふ。母追っかけ切れず大変だ。靴のまま他人様へどんどん上がって行ってしまふ。もう勇ましくて大騒ぎで、母の方が帰って来るとへとへとだ。赤いトマトも何処に有っても欲しがり、大きいのを一日中で二つも三つも食べてしまふ。真っ黒い顔で大の字に寝ているが、何とまあ可愛いらしい事よ。仁も美佐子も勉強して、よい子でぐっすり眠る。約一年間に八百九十七匁(3、36kg)の増加体重。


9月14日   一ヵ年五ヶ月 (生後17ヶ月目)
着物を着せ替えさせると、きゃあきゃあ夢中で嫌がって逃げる。余り大急ぎで逃げて障子の角へぶっつかって傷つく。庭へ出てころころ遊ぶ。
一寸 母、洗濯物を干しているうち、風の様に ぶんぶん飛んでいって、石段の所も構わず、平気で足を出して飛んでしまって、上から逆さに、ごてん ごてん と 四五段あらけて(転がり落ちて)、草に突っ掛かって止まる。
「ああ、ああっ!」と思って見て居るより仕方のないほど一寸の間に、おでこへ擦り傷と こぶを作る。初めての転んでの怪我だ。可哀想になる。 ごめんよ!
ごめんよ! と 母も困る。(後で)板の間へ 頭を擦り付けて、父に謝る。
「母ちゃんでよかったよ。おらあ(俺)なら、家から追い出されてしまふ」とお父ちゃんの一言に、みんな笑い出す。一分間も目が離せない事を痛感する。
バットを持ち毬を投げて、ホームラン、ホームランと言ってやると、バットを放り出して大急ぎでどんどんどんどん走り、炬燵の仕切ってある板の周りを廻り歩く。保美の運動場は、たった十畳一間の部屋で可哀想だ。


9月15日
富士見の金物屋さんから、前々から欲しいと思っていた釜戸を、お父ちゃんに買って戴き、牛車に正三さんのおばさんから付けて来てもらったので早速、嬉しくて 兄ちゃんが 御飯を炊いてみる。燃えもいいし、とても嬉しい。


9月19日
(近所の)友ちゃんは、いかな毎朝 ぐざって 泣き喚くのが 聞こへる のに引き換へて、保美の良い子には何とも言へぬ。おしっこは、もうちゃんと「しいっ」と教へる。夜中も、まりたい時はむっくり起きたり、ぐずぐず言ふのでやってやると、しゃんしゃんしゃんと大おしっこして又ぐっすり眠る。只油断出来ぬ事は、うっかりして居ると、太い棒でも茶碗でも硬い物を持って来て、知らないでいる人の頭をぽかっと力一杯撲り付けて、にこにこしているのには、痛さは痛いし、怒れないし、「こらっ」と言ふと、きゃあきゃあと喜ぶ。


9月20日
勝手との境の 障子を、スルスル開けて 入って来る。何時の間にか 鍋の蓋を
取り、お汁を 振り撒く。マッチ棒も ばら撒く。


9月22日
障子をさっさと開けて、火の傍へ来て突付く。何でも、ごた(悪さ)をして(火に)くべる(燃やす)。狭い縁側も、ぐんぐん跳び歩き、危なくて危なくて堪らぬ。
アメ、コケッコー(鶏の鳴く真似)、ああちゃんやあ(父が母を呼ぶ時の言い方:母ちゃんやあ)・・・足の出が力強く、ぐんぐん とぶ(走る)とぶ。

♪♪ごた→悪戯、悪さ、与太などの意だが、悪者、与太者などの人間も指し、より一層の、性根の悪さや極悪さ、理不尽ぶりが強調されている。
「:ごたっ小僧」は、どう仕様も無い、お手上げの悪ガキを謂う♪♪



9月26日   三輪車購入 
今日は美佐子ちゃんの誕生記念日。中秋の名月。
三輪車を、どんなのを買って来て戴けるのかと、保美は何も知らず、兄ちゃんと姉ちゃんとが待ち兼ねる。兄ちゃんは昨日あまり学校の同級生のいたづら小僧に構われて、目の下を叩かれ、それも毎日毎日いぢめられるので学校へ行くのが切なくて嫌になり、今日は休んで一日保美の子守をしている。
美佐子ちゃんのお祝い故、夕食に美味しい美味しいのた餅を作る。
お父ちゃんは、わざわざ三輪車を 上諏訪まで買いに行って下さった。
夜、佐久先生と、よし人と、よし人の父と、仁の所へ謝りに来て、先生はゆっくり夕食召し上がっていらしゃった。やっと兄ちゃんも胸が晴れ、今朝春君から謝りの手紙も来て、清々したらしく、明日は学校へ行くと言ふ。
お父ちゃん、赤く塗った素晴しい上等に三輪車を買ったり、美佐子の祝いのバナナの一本七十五円の高価な物を三本買って来たり、ブドー、リンゴ、それに保美のズボンを作る 布の上等を 買って来て下さった。
のた餅 おいしかった。もう保美は眠っていた。


9月27日
しいっしいっと、おしっこを知らせて起き、赤い自転車を見ると 直ぐ行って、
掴まったり押してみる。珍しい真面目な顔を、起き抜けだからしていたが、そのうちにこにこ笑って、直ぐ乗せてくれと云ふ。 早々布団たたんで片づけ、兄ちゃん姉ちゃんで、代わる代わる お子守だ。羨ましそうだ。お父ちゃんに 「こいこい」をして起こして、もう乗せてもらふのを せがんで 乗ってしまふ。

縁側の端の、一尺も 離れて立っている柱へ、手を伸ばして 掴まって居る。
離れていた母、危なさそうで、一寸 足が ずれると、大小の石(柱の基礎石や敷石)の上に 高い所から どかん! と落ちてしまふので、冷汗が出る。
そうっと 後から忍び寄って 掴まえたが、胸がドキドキする。もう、どんどん障子が開かるので、何処へでも さっさと来る。

いたづら小ぞう。二階へも ぐんぐん上がって行く。布団の 重ねた上から他の布団へ跳び降りる。いたづら小僧、くりくり小僧、ほんとうに可愛い小僧。

















         
【ザ・ははおや・・・の 総目次へ 戻る ↑】