6月1日
乳首を歯の跡がつく程、むしれる程かみついて痛い。鼻をつまんでも、しっかり かんでいて離さぬ。寝ている父の頭を持ち上げて、一生懸命力を入れて 起こしてしまふ。
6月4日 雨
岡谷から、すずらん狩りに四人姉ちゃん来る。今日は投票日だ。母も此の山へ来てから四年目、一度も山へ行かぬので投票場へ皆で行って来てから、立沢公園の上の山へ 皆と行く。保美は お父ちゃんの背に。
傘を差してのすずらん狩り。香り高いすずらんを、こいで(引き抜いて)来る。真赤な つつじも 目の醒めるよう。皆 大喜び。
夕食は家で。皆にすぐ馴れて、ああっああっと言ふと真似て「ああっああっ」とアクセントつけて 大声で真似る 面白き保美。
6月6日
気に入らぬと怒って泣く。足取りしっかり。頭刈る。眠っている時前のみ。後は騙し騙し母ちゃんの刈る真似をして見せると、暫しは自分もやってもらふ心算で じっとしている。
6月7日 大地へ靴で第一歩
写真を撮ろうと、緑の 小さい 生ゴムの靴を履かせたら、一人で歩くとて、ぐんぐん力を入れて 前へ出るので、掴まえているが、離そうとすると転びそうで、なかなか手が離せぬ。二枚写真を撮ったが、どんな工合か。
保美の 一人立姿と、仁・美佐子の 運動会リレー選手記念。
父が手を引いて歩かせると、父の手を払い退けて 一人で歩こうとする。
6月8日 上諏訪行き
早朝、家中で上諏訪行き。駅迄お父ちゃんにおんぶ。美佐子の眼鏡を買ったり、母の病院 診察目的。伊藤公寅さま方で遊ばせて戴く。お握りを むしゃむしゃ手より離さぬ。おざぶも沢山たべる。兄ちゃんの子守で母の入浴後、病院へ。お父ちゃんと美佐子、角間の小松さんまで眼鏡の心配に。
保美も皆も、久しぶりに 楽っくり の 入浴。
午後、上りにて帰る。又、山へは お父ちゃんに おんぶして戴き、帰る。雨がぽつぽつ落ちて来る。家に来たら雨となり始める。 ああ よい日に行って来てよかったと思ふ。
6月9日
大きい毬を 買って来たので、それを転がしたり 抱いたり 大喜びだ。
大雨となる。目がさめても 泣かずに、くいっと 立ち上がって 起きてしまふ。
6月10日 雨
発熱37度8分。一晩中安眠せず。爪を咥へる。きっと食べさせ過ぎかしら。
6月11日 雨
奉納生花会の反省会を、中村の作業所の二階で開く。この村の少数とは言へ、常識の無い人の在るのに驚く。保美は お父ちゃんに子守って戴く。目がさめると泣いて、母をきょろきょろ探すので 父困り、外へおぶい出して 途中まで来ていて下さる。もう一時だ。乳を呑んだら身動きもせず安心して眠ってしまふ。父が、保美が可哀想だと母を叱るが、母も仕方なしの会なので困ってしまふ。じめじめ大雨降りで、方々水害をきく。熱が下がったらしい。よかった。
6月12日
朝から来客。お茶を入れても手で丼の中を掻きまわし、箸はみんな放り投げる。何でもごちゃごちゃ引っ掻き廻すので、大閉口。必死になり子守をせねば人様にお茶を差し上げられない。背中におんぶしても喚く。食べ物をやると其れを背中から放り投げてしまふ。まだ言って聞かせても解らぬ頃だし冷汗が出る。来客はのんびりお茶を飲むつもりだし、出しておけば何でも摘まんでむしゃむしゃ食べてしまふし、あああ〜っ 大困り。
6月14日
さゆりさんのおっ母あ、朝から遊びに来て一日遊ぶ。どの人を見ても人見ず(人見知り)しないので、直ぐ人の所へ行って張り付いたり、掴まったり、頭を擦ったりするので、皆に可愛がられる保美だ。鏡の上へ上がって如何にも高い所へ乗ったつもりで、両手を挙げて万歳をして笑ってみせる可愛らしさ。
雨とうとう六日間も降り続いて水害のラジオ。今日昼過ぎ、久しぶりにほんのちらり 太陽が顔を出したが、又 ひっこむ。 おむつに困る子持ちは、じめじめ
えらい(大変だ)。
6月17日
茶碗で今迄は、飲むのに 向こうのふちに口をつけるので、みんな零れたが、今日はもう上手に口をつけて、少量の飲み物なら零さぬ様に飲んでしまふ。歯が 何時の間にか 出ている。犬歯だ。満二歳位で出る歯が、もう出ている。この間、乳を噛んだ訳だ。
6月19日 体重 二メ五百六十四匁(9、6kg)
6月20日
おむつを入れて置く こり(梱り:柳ごおり)を、重いのを うんうん唸って押して行く。座敷の中を 嬉しそうに押して行く。かなりに重い こりだ。
6月21日
組合まで行く。局へ寄って小為替を組む。重い保美だが背中でよい子でいるので、重いが張合がよい。
6月22日
眠った時、ようよう 頭を刈ってやる。さて起きてから 騙し騙し刈っても容易でなく、嫌で嫌で頭を振りたくる。短い毛を首や辺りへ振り撒くのに困る。もう騙すのに困る。うんちの回数が多いので心配。今日は「まあこ」と美佐子が言ふと背中へ廻る。仁も又「まあこ」と云ふと又あわてて背中へ掴まって喜ぶ。
6月24日 村民 大運動会
昨夜のうちに寿司や色々の御馳走を用意しておいても、さて出るとなると大忙し。幸い 保美が遅くまで眠っていて、支度が出来る。
よく晴れて 絶好の運動日和。晴れ過ぎて暑い。大きい雨コウモリを 持って行ってよかった。学校迄 背負って行く 保美の 重いこと。
一分団の場所の西側。すでに始まり。保美を膝にして見るが、よほど長いこと母の膝の上でいい子でいる。お兄ちゃんもお姉ちゃんも今日はリレーの選手となり、とぶ(走る)のだ。美佐子は昨夕、発熱三十九度あり、水枕にて寝て居て、今日は頑張って来たので心配だ。
午前中リレー子女の部あり。よく頑張って素晴しく速い。見ていて涙が出る。
昼食も庭の暑い所でやり、暑過ぎる。皆輪になって、あちこち御馳走の交換だ。昼食すませ、雨天体操場へ保美を下ろすと、さあ、その喜びようったら、裸足で広い体操場をぴたぴたぴたぴた何処へ行っても広いので大喜び。
余りあちこち突っ走るので、おぶい紐にて縛って長く伸ばして遊ばせる。皆、おもしろいし可愛いので、みんな保美を見て笑って居る。我が世の春とばかり保美の飛び歩き様。
運動は碌に見るどころではなく、兄ちゃん姉ちゃんの出る時のみ見ている。
村民出場の事で大喧嘩となり、分からず屋のひん曲がり屋が多く、大騒ぎとなり、競技が進まず、夕刻になっても未だ騒いでいる。寒くなって来て背中におんぶしていても咳が出る、心配。
リレーはよっく(すごく)遅い時間にやり、兄ちゃんも頑張ってよく走る。やっと終わった時は八時半。帰宅の時、さやかさんに、おんぶしてもらい帰る。九時半帰宅。みんな疲れた。
お父ちゃん放送係りで、暑いのに炎天に一日中腰掛けて、具合がお悪くなれば困ると思ったが、腕がすっかり出ていた分、焼けっ吊りした様に、ぶくぶくになり大変だ。明日は左千夫さん(父の弟)の家に呼ばれて行く筈。
6月25日
朝八時の下りのバス、中新田より発つ筈。それに間に合わせるのに大騒ぎ。何も彼もすっぽかして大急ぎ。後はお父ちゃんにお願ひして、仁、美佐子と飛びながら行く。霧が体を包んで、しっとりしたと思ふと、間もなく去って行き、又 体を包み、目の前が見えなくなる 高原の 野の風景。
ようよう間に合ふ。もうバスは来ていた。ほっとして大型バスへ乗る。
途中、(偶然にも訪問先の)千澄ちゃんの母ちゃんバスに乗り、一緒にお家まで。お腹が空いてしまった。叔母ちゃん御昼をこしらへて下さったのが二時。もうお祭りに行く元気も無くごろごろして居て、保美の眠るうち写真など見る。
仁、美佐子、祭りに行き、芝居など見て来る。午後五時で帰らぬと学校ある故、兄ちゃん姉ちゃんは二人で帰る。雨が降り出して来るし可哀想だったが、折角の母(折角やって来た母は)帰られず、左千夫叔父ちゃんの家へ泊めて戴く。夜は バケツをあけた位の土砂降りに。又 家の事を思ふ。
保美はノミが余り多く、一晩中 ぐずぐず言い、ゴロゴロ荒びて、見ると 体中が真赤の位に喰われて、ひどいもの。母も とうとう、ろくろく 眠れず、夜を 明かしてしまふ。
6月26日
朝おいしいお餅を戴き、帰り支度。もう保美は馴れてしまって、囲炉裏へ飛んで行き、灰を手に掴んで座敷中ばら撒く。何処でもどんどん歩き廻り、いたずらの限りを尽くす。ようよう支度して、11時 おいとまする。
ぼつぼつ歩いて菊沢まで丸屋のおばちゃんの家へ、母はじめてお訪ねする。それはそれは喜んで下さるおばちゃん。ああ来てよかったなあと思った。下ろすともう、どんどん どんどん 何処でも 広いお家を飛び廻り、お勝手へ
入り、塩の壷から一掴み 掴み出し、舐めてみて 変な顔をしたり、あちこち母おちついて話をする間も無い程。
いろいろ御馳走になり、今度は宮原のお祖母ちゃまの生まれたお家へ行く。御先祖様にお線香を上げて心安らか。保美はもう、どんどんお勝手へ行く。危ない方へ行く。お茶を出して下されば、手を突っ込んで引っ掻き廻すので慌てて おんぶすると、背中で喚く。何かやっても みんな放り投げてしまふ。
冷汗かいて子守る。
夕方六時のバスがあるので、おいとまして中新田までバスで。それより歩く。重い色々のお土産物を 両手に下げて、背中に重い保美。一歩一歩 ようよう帰って来る。丸屋の叔母ちゃん、隠して色々のお土産下さって嬉しい。
帰宅したら 留守に 堀好人君来たりし由。仁、美佐子共にお父ちゃんと、紀元さん家へ夕食に呼ばれて行って居無い。遅く帰って来る。保美背中へ来て、まあこする様に掴まって、おんぶを ねだる。夜は荒びる。
6月29日
裏の障子の張らない格子へ掴まって足を掛け、上がったり下りたりする。顔がおできっぽい。
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