3月3日
おひなまつりだと云ふのに、とうとう母も寝込んでしまって何も出来ない。
一日の晩、保美に浣腸してやって、どっさり便が出たので一安心したものの、二日には 洗濯が一ぱいの所へ又 便を粗相して よごれ物が更に増える。
寒気がして 困っていたが 止むを得ず、我慢して 小川の冷たい水で 洗濯。
すると、震い出し(全身痙攣)が出てしまって、沢山 布団を着ても、何としても駄目。 午後、さゆりさんのお母さん来て、保美を お守しに 連れて行って下さったので、その隙に床の中にもぐったが、気分が悪いし悪寒がするし、頭は痛く、いつもグルグル頭の中で保美の事を考へて、ドキドキ心配しながら夕刻まで お守してもらって来た。


3月4日
学芸大会。みんなお重箱しょって、さそい合って学校へ行くのに、又今年も行く事が出来ない。淋しい思いだ。 仁は未だ熱っぽいのに、どうでも行くと云って、ごしたい(疲れている)のに出て行った。保美と二人きりで、じっと床の中にもぐっている訳にゆかず、ノコノコ這い出しては悪戯する保美を連れ戻しては又、ノコノコ行くのを掴まへては 床の傍へ連れて来ては、を何度も繰り返す。とても疲れる。頭や喉、腹と何と云ふ嫌な気持ちだろう。
貞幸さん来る。お茶も入らぬ。肉をお土産に戴いた。学校生徒よりお饅頭を戴き、美味しくて夢中で食べた。 
障子を破り出した。外(側)で指をつまんだが、じっと泣かずに居て、そのうち 「えへへ」 と 笑って 覗いていた。


3月5日
仁の誕生記念日だが、何もしてやれない。丁度日曜日でみんな色々やって戴き床の中へ。眠りたくても頭が痛すぎて眠れなかった。
保美は一日中、お父ちゃんの膝に居た。


3月7日
一人で ちょこんと、おつくべ(正座)する。障子の傍へ寄っては、面白がって穴を開けはじめる。ちろちろ紙のとじた型の穴を、指で押してみている。外でつねってみても痛がりもせず居る。何とか 破らせぬ方法を したいものだ。
さゆりさんのお母さん来て、お守に連れて行って下さる。そのうち眠って起きたら熱が浮いたらしく、気分が楽になったが 喉の痛いこと。夕刻迄また昼食に乳くれに来てもらひ、連れて行ってもらってくる。夜、保美 咳とても出る。


3月8日
何日ぶりの便通か。考へてみると、もう一週間。硬い硬い便を 唸ってやる。
母の便秘に似たのか、可哀想な保美。夜熱が高く、グズつく。


3月14日   満11ヶ月、体重 二メ三百六十六匁(8,87kg)
少しの間もじっとして居ない。冷たい故と 炬燵に当てようと思っても 直ぐ足を出して向うへ行ってしまふ。どんどん伝い歩みをする。這ふ。目が離せない。本棚に並べた本を一冊づつみんな下へ落してじっと遊んでいる。障子紙が新しいので 未だ破れないが、明るい障子に掴まって とんとん叩く。
掴まり 歩く 早さ。「たあったっ、たあったっ」 等、大声を 張り上げる。はたきを持ったら、何処へも掴まらず、じっと立って五分程も転ばない。えんこもする。時々 極く わずかづつ、じっと立って居る練習だ。
大やのポンドかりて体重はかる。本の体重より十二匁(45g)少ない。パカン煎餅を四枚の歯で、ぽりぽりとかじって食べる。甘酒をこしらへてやったが、酢かったので余り食べない。重湯を美味しくしてやると、よくのむ。


3月18日
一瞬間にして、ごてん と 起きてしまふ。おむつを 寝せて当てようと 思っても容易でない。一人で何処へも掴まらず、しばらく立って居る。気が向くと家の周りの壁や障子を伝って歩いて遊ぶ。障子の穴があれば破りそうになる。
指でつまんでも 泣かないし、又 穴へ手をやる。 目やにが 出るので目薬を買って来て戴く。白い新しいキャラコで パンツ二枚縫ってやる。母も嬉しい。
だんだん宮原(父の実家)のお祖父ちゃんの面影を表はしてくる保美。
「なんなんなんなん」、「あぶあぶあぶ」 など 大きい声を張り上げる。
足取りが、とても しっかり して来た。上の歯が大きく白く、はっきり見える。
パンせんべいを ポリポリ 音を立てて かぢる。
14日頃より、御飯を 匙で 潰して 少量づつ食べさせる。重湯は 小茶碗1つ位 のんで しまふ。
体へ 皮膚の所へ ざらざらと、ども(疥癬)の様なもの出来て、油薬をつけたら段々よいらしい。頭へも白いもの、たかる(付着する)。


3月20日   頭の こび へ 白い薬をつける。目やにが しきりに出る。


3月21日
早朝寒いのに仁、美佐子お宮の庭へ場所取りに行く。今日は朝から演芸大会があり、皆お重を負って行く。暗いうちから子供が場所取りで大賑やかとの事。去年も見なかった故、今年こそと天気の好いのをよいことに保美おんぶして行く。中央の所へ座る。背中でよい子でいる。昼食すぎ、おむつが濡れたのか、ぐづぐづ云ふし、咳も心配となり、一時半頃帰宅。
仁、美佐子は暗くなって七時頃帰る。夜二人とも、ひどい咳だ。午後の寒さと 風の強さにも帰らず、終りまで見ていたのだ。
保美が仰向いた時みると、上の歯が前歯二枚の左右に、又出はじめて、いよいよ四枚出来る。
「やあやあやあ」、「うんま うんま うま」、など叫ぶ。 飴を、よだれ一つ垂らさず上手になめてしまふ。御飯 つぶしたのを くれ始める。


3月24日
お花の会 はらん。サカ代さんに おんぶしてもらって行く。今日は 美佐子がついて行って子守ってくれるので大助かり。はらんなので母も大忙し。疲れるので子守は助かる。又帰りはサカちゃんにおんぶしてもらって来る。もう重いので体にこたへる。公民館で下ろしたら広いので、どんどん這って行く。
おしっこも 畳の上に してしまふし 大騒ぎ。
帰宅して少し経つと、由子さんの母 来る。明日 三沢へ行くつもりだったので予定が すっかり 狂ふ。夜まで居てお帰りなので大忙し。
夜、久しぶりに母と保美と二人、入浴にさゆりさん方へ呼ばれて行く。もう眠くなっている時間なので、子守してもらふ時泣く。入浴させるとよい子になる。
頭の薬をよく洗ったが、白い所が なかなか 落ちない。十二時近く 帰宅して、
それより綿入を解き、三沢行きの用意する。お父ちゃん風邪で御加減悪い。


3月25日   三沢行
早朝より用意に忙しい。どっさり買った木綿の反物や内織をリュックに詰める。仁、美佐子、咳が ひどいので 心配しながら出る。後をお父ちゃんにお願いして、五時半頃出発。十二時に ようよう(辛うじて:ようやく) 間にあふ。
途中 背中の保美が重くて、足が出ない。休み休み ようようだ。
汽車中で下ろして乳を呑ませ、おむつ替えて又おんぶ。
久しぶりの三沢行きだ。バスがあるので、荷物もあり乗って行く。仁、美佐子もよく重い荷物を背負って行ってくれた。
「みんなで来たぞえ。」と立沢言葉で美佐子入って行く。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも大喜び。 大きくなった保美を 考え違いをして、お祖父ちゃんは、お誕生日すぎて五ヶ月位経ったと思って、「仁の時はもう歩いたなあ」と云ふ。まだ十一ヶ月だと言ふと、びっくりして、「こんなに伝って歩くので、一年半も経った様な気がした」 って、びっくり していた。
広いのであっちこっち這い歩き、囲炉裏の火が珍しく、どんどん火の所へ這って行きそうになり、大慌てに止める。机の上の茶碗らを叩く、転がす、大忙し。折角張った新しい障子をさばく。おぢいちゃんは「そうやっておけ、やらせておけ」 と 上々機嫌。咳を心配したが、誰も出なくて よかった。


3月26日   雨、時々曇り
朝から雨で一日家でしゃべったりする。保美は囲炉裏が珍しく、火の燃えている所へ平気でどんどん這い込んで行きそうになる。いろいろの物を置いてあるので、監督に気が詰る。楽っくり休む隙も無いし、戸を締め切っておけば泣くし。 夕刻、片倉操さんの所へ御祝に行く。保美を置いて行ったら、悪止めに めた(際限なく)止めて下さるので、苛々しながら御馳走になって来る。三沢屋の所に美佐子がおんぶして、背中へ薄い袷を ちょこんと着たのみで鼻水出して、おんぶ されていた。
自分の子の事だけれど、少しは孫の心配もして、着る物の注意に 心を止めて下さればよいが、と思ふ。


3月27日   晴
下諏訪の大社へ、お花の打合せに行く。美佐子ちゃんも共に。買物をしたいので、あちこち歩く。物が大へん安くなって来ている。あちこち歩き廻ったのですっかり疲れてしまふし、背中でぐづぐづ云ふし。困って角の安部さんの所へ寄せてもらふ。おむつ替えたり、美佐子弁当出したり食べているうち、お茶を入れて下さった。そのお茶の美味しかったこと。ほんとうに助かった。
帰り、バス下車、加寿世ちゃん方へ学校上がりの御祝ひ持って上る。みんな大きく成っている。重い保美を下ろしてほっとする。もうそこらを這いまわす。忙しくてお茶も飲んだ様な気がしない。三沢行きのバスに遅れると困ると急ぎおいとまする。少し駅で時間あり。 反物の裏地など買ったり、仁と美佐子の
ゴムまりを土産に買ふ。帰ったら疲れてへとへとだ。折角 来ても 風邪の咳を
考えて 入浴も出来ず。
夜、まち子(妹)とけんかをする。一度嫁入った者が帰ってきて、まるで女王の様に人の家に厄介になり、我まま一ぱいに暮して、力んでいるのに対して、注意を したら 喰ってかかる。怒りの まち の事を恐ろしいと思った。
夜 雨が降ったので、帰宅出来ぬかと 心配して寝る。


3月28日
幸晴れていてよかった。十二時で帰るので バスへ 三沢屋前 から乗り よかった。お父ちゃんの御病気を案じながら、自分の家程よい所はないと考へる。
汽車が大混雑。身動き ならぬのと 暑いので、背中で 泣くとも 泣くとも。何か煎餅など与えると、食べて又 すぐ泣く。早く富士見へ 着けばよい と願ふ。
外へ出たらほっとした。相沢さんへ寄って薬などもらい途中まで来たら、材木を運んでいるトラックに頼み、みんな乗せてもらふ。嬉しくて嬉しくて拝みたいようだった。重い保美は背中でねんねしていた。夕刻でなければ着かぬのに早めに着いてよかった。


3月29日
雨で、帰宅が きのふで よかった と思ふ。奨水油を頭につけて擦ってみると、ふけが沢山とれて白い所が清々する。


3月30日
大うんちする。大人がまる(する)位の、沢山の のを 庭にする。
口も 両端を 内へ引っ込めて、へんな口つきをして、おちょぼ口にして喜ぶ。


3月31日
午後曇り空だったが五時半、大騒ぎしてお父ちゃん、仁、美佐子と、山出しの御柱(おんばしら)の祭りに行く。左千夫叔父ちゃんの家へ行くのだ。
夜は 保美と母と二人きりの、淋しくて不安で 眠った様な 気がしない。











         
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