2月1日   晴
昨日迄の暖かさが今日は寒くなる。ええん、ええんと甘へる泣き声で起きる。
一人で炬燵へ立たせておいたら、そっと見ていたら、両手をそっと離して一人で立っている練習をしていた姿が、又となく嬉しく 可愛らしい。
みな子さんの家へ御年始に呼ばれて昼食に行く。いい子で遊んだり、背中でぶうぶう歯の出来る音をしている。少し座敷で寝る。夕刻帰る。

2月2日
夜、降幡先生宅へ呼ばれて行く。背中で眺めている。せんべい持たせたら、舐めて食べてしまった。背中も重くてえらい(ひどく大変だ)。遅くに、さゆりさん方へ入浴に寄る。叔母ちゃんに着物を脱がせてもらふ。仁、美佐子は先に入って待っていた。とてもぴちゃぴちゃ嬉しそう。着るのもおばちゃんだ。ぬくぬく温まり帰宅したら十二時。

2月5日
午前中また生花に。子守は仁、美佐子にたのむ。十二時帰宅、(家の)中でよい子で父ちゃんに抱かれていた。

2月7日
朝、お父ちゃんが 「手を上げてみろ」と云ふと 手を上げる。「かぶりかぶり」と云ふと 首をさかんに左右に振る。「ばんざあい」と云ふと、そろそろ手を片方あげる。とても りこうになる。おもゆを とっては のませる。

2月10日
雷雨と風と恐ろしい朝だ。早朝この中を御出掛けのお父ちゃん。永明校へ。電気が消えても泣かない子。えんこも長く出来る。昨日は三日ぶりに通じあり一安心したら今朝又あり。


2月12日
ぱかん煎餅(手作り煎餅)を頼んで餅米も保美の分を五合やってもらふ。お父ちゃん会有りお留守なので公民館へおんぶして行く。静かな鋏の音のみの中に、背中で「うんまうんま」ぷうぷうなどと云ふ。会が終わって炬燵で乳を呑む折、みんなの顔を一人づつ見てにこにこする。雪の道を、ようよう寒くて帰宅すると、仁、美佐子がすっかり昼食の用意とお茶を飲むばかりにして、炬燵で飲める様にしてあり、嬉しく美味しいお茶をがぶがぶ飲む。吹雪だったが沢山湯を沸かして毛糸物を洗濯する。子守のある時と、母 大童。


2月13日
役場で十五日、乳児健康診断が有るとの事。夕刻たかひろさん方で入浴の知らせあり。役場へ富雄さんも行くので湯を立てて呼んで下さった由。入浴の際、富雄さんの母ちゃんに衣類みて戴くが、泣くので気が気でない。眠いのと母の顔を覚えて来たので、やりずらくなった。熱い湯は大息をしても泣かずに入る。あちこちで煎餅くださって一日中で六枚も食べる。心配となる。


2月14日  (生後10ヶ月目)
仁ちゃんに二時間、子守をたのむ。米田屋まで薄陽が差すので、おんぶして行って来てもらふ。明日着て行く下襦袢を縫ふ。
夕刻わざわざ、たけみちゃん家でも湯を沸かせて呼びに着て下さったので、雪の中を行く。髄から寒い。おばちゃんみて戴きゆっくり入る。入ってしまふと大喜びでよく入る。温まり、入浴の夜はぐっすり眠る。あまりよく眠って、ひょっと目をあけてみて、(却って不安になり)揺り動せてみる時もある。
入浴前、久しぶりに頭を くりくりに 刈る。
お父ちゃんが上諏訪より(アルミ)ニュームのラッパを買って来て下さった。笛を口へ入れると、あまり口の中へ突っ込み過ぎて鳴らないので、口へよく入れても鳴るのを求めて来て下さった。口へ入れても未だよく音が出ないが、お父ちゃんの口の所へ持っていって、吹いてもらふと 喜んでいる。


2月15日   朝雪、十二時頃うす日さす。四時頃より又雪。
外出の用意は朝からでも忙しい。おむつや食事や大騒ぎ。眠らせているうち用意して、十二時半 家を出る。高原の地で 大寒々の最中に 真っ裸にする事を 案じながら行く。すべる道、泥の道、この道をお父ちゃんや仁、美佐子が毎日通ふ苦労を知る。富雄さんの母ちゃんと一緒に歩くのに、よろよろだ。やっと役場迄。 狭い役場の二階にお母さん達が子供とぎっしり詰って居る。ストーブと火鉢とで中は汗がたらたら出る程のあつさ。もう始まっていて、保健婦さんと崇ちゃんとでやっている。小池医師の診察。みんな簡単なり。
医師に診てもらふ時、呼吸をみるゴムを手でいぢってにこにこしている。背丈を計る時は、頭の上の方の、秤の上にある籠へ届かせようと手を伸ばしている。 紙に書かれた量と、標準を書き留めて帰る。 正基さんは二月生れ、富ちゃんは十月、義男ちゃんは 保美より一週間後。四人で帰る。 どうみても、
保美のぴちぴちした、力強い体と 可愛い顔は、連れて行ってみたうち、そう
沢山は 無かった。
 保美 十ヶ月体重 八三00グラム (標準八七00)  胸囲四ニ・五糎 (標準四四・六)  身長六九糎 (標準七0・六)


2月16日
そうっと手を離して、一人立ちの練習をする。「えええ ううう」など 喉から出して御機嫌よく、頭を くりくり刈ったら、さも いたずら小僧の様だ。
朝おむつが外れて、お大便が布団の上に落ちたのを足で踏んで、そこらじう えらい こんだ(事だ)。うんち だらけの大さわぎ。着物から 布団から 大洗濯
せねばならないのに、湯を沸かして、さて洗濯すこし始めたら、しづかさんが婚礼の生花を習いに来る。さあ大変。まだ座敷は乾かず、うんちは洗濯せねばならず大困りだが、洗濯そっちのけで生花にかかる。
午後三時すぎ、生花をみながら局へ行く。ちょうど安一さん婿入りの道で合って、お目出度う云ふ。千保美さんのお母さんが見つけて、あわててお饅頭を包んで下さる。空腹にて昼食ぬきだったので美味しかった。
夜、畳の上を這って三、四尺前へ出たり後へ行ったりする。ラッパを時折ぷうぷうと吹く。首をさかんに振る。どこか痒いのか、おしっこしたのか、ぶんぶん振り、目をふさいで居て 振っている。布団の大きいのを 後へまわして 置き、
立たせると 余程 長時間 立っている。
乳首を 柔らかい指先で つまむ力の 強くなって来て 痛いこと。何か一寸でも高い物があると、すぐ足を掛けて登る。膝の上を ぐんぐん踏んで上る。


2月17日
幾日も曇り日が続き、誠におむつに困る。ラッパを口へ入れて上手に音を出して吹けるようになる。物を持っては落し、又取ってやると又落とし、くり返して笑っている。餅米のパンせんべいを よく食べる。
丸い澄んだ大きな目。赤いほほ。安らかな寝顔。歯がよく二本出ている。
たた たた、ぷっぷっぷっぷっ 可愛らしい声。
居ないよう、たあ!!と云ってやると、きゃっきゃっきゃけらけらけら、と大きい声で笑ふ。やってくれるのを待っていて、調子を合せて笑ふ。


2月18日  晴
久しぶりに 晴れて 上天気。おむつを よく乾かす 太陽の光に、思はず 洗濯を沢山する。おんぶして日当りのよい所で洗濯。背中が重いが、ぬくぬく日を受けていい顔している保美を思ふと、軽い気分になる。
お父ちゃん一番早く上諏訪へ行き、帰りは明日の御馳走やみかんを保美に買って来て下さる。
夜ラッパを上手に吹き乍ら、片手ではガラガラを振って、両方の物を使い分けている。りこうさに驚く。夜中おむつが湿って背中までずっくりになり可哀想。おむつ替える時は、まるで大きな声で泣いて、弓なりになり、なかなかおむつが替えられない。


2月19日
今日はお父ちゃんとお母ちゃんの結婚記念日だ。十四年前の今日は、深ひ縁に結ばれて、よいお父ちゃんを母が得た日だ。嬉しい日だ。仁、美佐子がお目出度う云ってくれる。
朝、保美のお子守たのんで組合まで買い物に行って来る。それは至さんのばあちゃんが木綿布類があって売る様だとの事を知らせて下さったので、大急ぎで行って来る。褒賞用に農家へ来たのが 農家が買えなくて在るのだ。
反物を五反も買って来た。嬉しくて堪らぬ。今迄 どんなに欲しくても物が無くて買えなかったのだ。お父ちゃんが一生懸命に働いて下さる御陰様なのだ。
午後早めに御飯を炊き、今日の記念の御祝に豚肉のすき焼きだ。三時半頃から始める。仁、美佐子も大喜び。おいしい豚肉に葱にこんにゃくに、みんなにこにこ。久しぶりにお父ちゃんも 御酒召し上がる。保美は沢山 乳と重湯を飲んで、炬燵へ立って 一人で おもちゃで騒いでいる。夜、おおやへ入浴に呼ばれ、おばちゃんに着替えを頼む。いい子で入る。
よく眠る。夜中、おむつを取り替える時の大きな声。正三さんのポチ、保美の大便のついた ズロースおむつを、何処かへ 咥えて行ってしまふ。


2月20日
あお向けて、ひょっとお口を見たら、うえあごからちらり二本の歯が出始めたのが見へる。向かって左側」の方が一寸余分に出ているが、殆んど同じだ。可愛らしいこと。どうも大根漬け噛み切っていた訳だと思った。


2月22日
炬燵の所で伝い歩みをする。姉ちゃんが具合が悪く寝ていたら、こっちの側から歩いて、ねえちゃんの布団の上に這い上がって喜んでいる。母ちゃんが腰が痛いと仰向けに寝たら、体につかまって行ったり来たり盛んにやっている。 夜、熱が39度8分あり、美佐子ちゃんは大変だ。 お父ちゃんの お帰りを一刻千秋と待つ。
昼間おいしい玉子の黄味を混ぜて粥を煮たら美味しいので、やめるととても「ちゃあ ちゃあ」云って怒る。寒いが 炬燵で よく三時間程ねむった。
お医者様、なんだか来てくれず、お父ちゃん富士見へ薬とりに行って戴き、帰りに 美味しい林檎 買って来て下さった。
おてんこ(お手玉)を投げてあそぶ。鈴の入ったおてんこを炬燵の上で一生懸命なげて遊ぶ。


2月23日
早く目ざめてお父ちゃんの膝へ。姉ちゃんは未だ熱が高い。朝なのに38度5分も有り。足や腰が痛い痛いと騒ぐ。重湯も美味しく食べる保美。
もう掴まって歩くので姉ちゃんの所へ行かせない様にしても直ぐ行ってしまふ。這わせても可なり這う。一寸の間、外に出たら、姉ちゃんがぎゃあぎゃあ云ふので大急ぎで帰って来ると、いつの間にか保美が、ぐっすり眠っていた姉ちゃんの頭の上の方へ乗って喜んでいた。にこにこ笑っている。戸のとこと壁の所をつたって歩いた。


2月24日
戸と壁と箪笥と、ぐるぐる掴まって歩く。勝手まで這って来る。いよいよ辺りを片付けて措かねばならぬ。仁ちゃんが 夕刻 熱出る。保美ちゃんを 悪くならないように祈りつつ。

2月26日
ゆふべより仁ちゃん熱で床に。母も頭が重く、腰や節が痛いが、お花の会に我慢して行く。保美はサカ代さんにおんぶしてもらって行く。
静かな鋏の音のみの会の中に、背中で ブウブウブウと さかんに云い通して皆んな笑ふ。帰りも又、サカ代さんに おんぶして来てもらふ。











         
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