11月2日
二階にて 長靴を持ち出し、並べて グルグル 輪列にして、その中に入って
隠れて、〔居たよう〕・〔居ないよう〕する。
「ばか」。「りんご」。「いやいや」。「いたえ、いてえ」。「こっち」。「しっこ」。
「とうちゃん」、「かあちゃん」は 未だ 不明瞭。
11月3日
母、川で洗濯していると、一人でねんねから起きて二階へ上がって行って、泪を一杯ためて遊んで居た。とても可哀想だった。いづみさん方へ入浴に。家が広いので大喜び。とんとん歩き廻る。
11月4日 よい子で 一人で炬燵へ当たり 絵本を見ている。
11月6日
山田写真館より、大名姿の焼き回しの写真、とてもよく撮れているのが来る。
11月7日
大やへ行き 帰りぎわ、有難云えと言ふと、ありがとうと 頭を よく下げる。
11月9日
昼間、さつま芋の うでた(茹でた)のを 戴いて 食べているのを、一つ年上の友雄が もぎ取ってしまったので、保美は怒って、土の上に大の字にひっくり返り、何と騙しても泣きやまぬ。その後、藁の中で遊ぶうち、友雄に長靴を上から顔へ叩き付けられる。保美は少し経って 太い棒で友雄を ぼかんと撲る。
さゆりさん方へ行き、バリカン持参で頭刈りの入浴。眠いので泣く。
11月14日 【生後1年7ヶ月目】: 体重二メ八百八十八匁(10、8kg)
「おんにも、おんにも」 ( 俺にも俺にも) と 何か ねだる。
「ちよちゃあ」 と( 同じ歳の近所の女の子の名を) 大きい声で呼ぶ。
「いやいや。」 「しっこ、しいしい。」
眠りから醒めて、「かあちゃん やい」 と、(丸で 父の呼び掛け方 そっくりに)
はっきり言って、むっくり 起きる。
11月15日
御湯立祭りの生花奉納準備に、小池登志美様方へ行き、半日いる。
座敷つくり。××方のおばさん、こちらを困らせようと大張り切りの由。
こちらも一生懸命やる。
11月16日
早朝になかなか出掛けられぬ。保美の着物きかえ、後片付けして母が着替えて出る迄に、来客二人も有り。美佐子ちゃんに早帰りしてもらふ迄に十一時、ようよう母も出る所。美佐子にお子守してもらい、公民館にて生花の仕込み。多勢で、母大忙し。 入り口の所へ来て、「かあちゃん、かあちゃん」 と 保美が呼ぶ。生徒の中を分けて、母の所へ来てしがみつく。「しっこ、しっこ」 と言って生方も 慌てて外へ出る。 夜まで大忙し。すっかり仕上がる迄には、よっく暗くなってしまふ。夕食も持参で、志づかさんの 生け終わる頃は十二時。
美佐子も保美をおんぶし乍ら、倒れそうに お子守してくれて 可哀想だったが、仕方なし。子供が大変えらい目に遭った訳だ。
志づかさんに 送って もらって 帰る。
11月17日 立沢の甘酒祭り。
早朝より 志づか様宅へ行く。あっちこっち 配置を よくし、生け方の悪いのを生け変へ、いろいろ目を通す。志づか様に おんぶさせて 半日 保美の子守してもらふ。 早くから大勢、見に出掛ける。 天気は好し。昨年より 並べ方、生け方に 大きな進歩あり。 中坪の或る おばさんが、母ちゃんが沢山教えているので、自分が頼まれないのが口惜しくて、今年は奉納して、母ちゃんのお花を負かすとか言って、向ふは 男の人達大勢が来て、柵を飾ったりする。二十鉢生けて有ったが皆、崩れた様になっていて見栄えがせず。青年女子の方が格段の違いに立派に飾れて、皆会員も大喜びをした。見物人の評判もよく、母も一安心した。これは偏に、保美のお父ちゃんの お陰だった事を、
つくづく 思ふ。
午前中、写真を撮る。保美とび歩いていて、なかなか、えんこ(お座り)しない。いろいろ御馳走になって夜まで居たが、楽っくり眠る所が無いので、保美は「ねんね、ねんね」と大道へ寝そべって起きない。とにかく保美が一番偉い目に遭った訳だ。夜、後片付けしてより家に仁、美佐子と帰る。心が楽っくりしたが、疲れた。
11月22日
昨夜、輝夫様方へ入浴に行った折、いかにも静かだったが、具合が悪かったのか、朝より熱っぽい。夜になったら とても高い熱。心配になる。
11月23日
朝、立沢へ出張の五味先生の所へ、仁、美佐子を訊きにやると、今日は出張の日との事。午後より行く。安心して 浣腸してもらって帰る。
便が出そうらしく、背中で「しいしいっ、しいしい」と 知らせて泣く。熱が下がるかと思ったが、40度にもなる。父、「医者によく診てもらわぬが悪い」と 母叱られるが、どう仕様も無い。夜、生花会へ行くのにも辛い思いで子守をお願い様して行くと丁度、茶話会をするとの事。気が気でなく座ってお茶を飲んでも少しも美味しく無かった。帰って来れば、「遅い」と父に叱られるし、もう生花の教授は つくづく嫌になった。子持ちは 無理すぎる訳だ。
11月24日
背中で眠る。夜生花会に行こうと思っても、母の胸にしがみ付いていて離れぬ。約一時間も遅れて行き、一時間やって帰って来る。可愛い子の病をよくみてやれぬ場合の切なさ。
11月25日
相沢さんの医者へ仁兄ちゃん薬もらいに行って来てくれる。一里以上の道を行くのだ。六時間置きの薬を飲ませる。ぐづぐづ背中で眠ったり、ぐざったりで下に居ない。
11月26日
寒々とした顔をしておんぶ。幾分か歩いてみたい気が出るが、ふらふら、直ぐ体が震へて、倒れる。
11月27日
今日は笑ひ顔が出て、やれやれと家の中が明るい思いがする。子供が病むと、父母が喧嘩になってしまう程、父母 心配するのだ。
朝、軟らかい芋を食べる。さむしいので用事ながら、大やで遊ばせてもらふ。
布団の重なった上へ乗ったり、キセル二本を持って 口の穴へ片方の のを、ぶら下げて喜ぶ。 夜、徳武様方へ 入浴に呼ばれたが、保美を入れぬので、裸になって一緒に入りたいと、背中を出して擦り寄って来る。入れてやらぬ事が判ると、棒を投げたりして怒る。
「くま」、「しか」、「わんわ」、「びちょびちょ」(水)、「ひとし」、「にいちゃん」、「とうちゃん」、「かあちゃん」、「あめ」、「ごはん」。
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