10月2日
此の頃は夜中に、ちんちが大きくふくれておしっこ、まりそうなので起こして、やってやろうとしても、大声で泣いて弓なりに反ってしまふ。仕方なく乳を与えて暫らく経ってからやると、まる。寒いのと 眠いので 嫌だ らしい。
もう狭い縁側を どんどん飛び走り、今日は二度も転げ落ちる。外へ出たいと
母の襟を掴んで、きゃあきゃあ 泣いて引っ吊る。早く来い来いと 先へ立って呼ぶ。今日は外へ出ないでいたら、母の頬っぺたを しっかりつねり上げて引っ吊る。立たぬ訳にいかぬ。一日の夜、生花会に眠らせて行ったら直ぐ目を開いて、母の居ないのを知り 泣きやまず、怒って 弓なりに反っくり返り、父が大困りだった由。今夜も花の会で又母出るので、父にみて戴く。父も大変だ。
二階へは、「よいしょ、よいしょ」 と云いながら 上まで上がってしまふ。
三輪車に(同じ年頃の近所の)友雄さんや金ちゃんを乗せて、後から押して、とっとこ歩き、何度も 何度も、十五社様の所を 往復する。母 ついて歩いて
疲れ切って しまふ。
10月5日
三日、縁側より転げ落ち、石の角へぶつけて小指が入るくらい、額の右上をぶつ。はっとして胸が冷たくなった様。間もなく凹みが直ったが、黒ずみ少し凹んでいる。 一、二、三日と夜、母生花会にあちこち歩くので、夜の子守をお父ちゃん御苦労様。
外の縁側をどんどん飛ぶ。障子は開ける。鍋の中の汁はばら撒く。机の上の煮物を摘まみ出す。家中大騒ぎ。火の中へは何でも放り込む。二階へはどんどん上がって、色々ある物を放り投げて落としてしまふ。ある限りのいたづらをする。 今年も全校リレーに仁兄ちゃんと美佐子ちゃんと選手になって出るとの事。また張合よく見に行ける。理髪するのに逃げ廻って半日掛かりでやる。夜 ねつが出る。腹の加減かしら。
10月6日
頭は 虎刈り。眠ったのをみて 顔を剃る。昨夜心配したが 元気で遊ぶ。
何も 食べたがらない。明日の 運動会の 御馳走の用意も 子守しながら、
ようよう 一日掛かりだ。
10月7日 (本郷小学校 大運動会)
幸い天気だ。昨夜のうち、すっかり 食事の用意は したものの、未だ何彼と大忙し。みんな早い登校に大騒ぎ。一旦目を開いたけれど又乳で保美を寝せつける。よい按配に眠ったので早目に用意が出来て8時15分頃家を出る。
着物を着替える前に、「今日は 兄ちゃんや 姉ちゃんの、よいしょ よいしょ を見に行くで(から)、よい子で うんち してね」 と云ふと 解ったそうで、うんうん唸って 少量の大便する。着物 きかえるのにも 大人しく、たっつけ(もんぺ)を小さく こしらえたのを 穿かせるにも、大人しく している。何時もなら 逃げ歩くのに 珍しい。
もう五六番目を過ぎていたが 早い方だ。おんりして 母の膝で よい子で見ていたが、一時間ばかりして、そろそろ歩きたくなり、母を突付いて歩き出す。運動会の方へ後を向けて、石を投げたり、庭の芝生の周りを 飛び歩く。
運動会の内に おしっこ やってやったら、三回 よい子で まった。 広い 広い
体操場や廊下を とんとんとんとん嬉しそうに飛び歩く。保美も大運動会だ。
兄ちゃん姉ちゃんの番の時は成るべく見るようにして、後は殆んど保美の子守で遊ぶ。 お父ちゃんの名放送を可笑しく聞く。見物人も、なかなか上手いもんだ と褒めていて 嬉しい。
午前中、美佐子ちゃんの全校リレーに手に汗を握る。午後最初は兄ちゃんの全校リレー出場だ。二人とも しっかり、人にすぐれた体力で張り切ってやってくれるので、しみじみ嬉しいと思ふ。兄ちゃんは決勝の所で旗を渡す係りで、一生懸命やっている。みんな、いい運動会で ほんとうに よかったね。
保美は昼頃、ねむいのに 家の様に眠れぬので、いぢれて、どうしても泣いて困ったが、体操場へ 連れて行ったら、泣き止んで 元気に遊ぶ。 帰りも 広い体操場で飛び歩き、なかなか帰ろうと しない。母の綺麗な衣類へ、ベタベタと 何か引っ付けて 台無しに してしまふ。 夜は みんな疲れて 早く床へ。
10月8日
みんなゆっくり寝せてやろうとしても保美で早く起こされてしまふ。十時半頃、山の畑へお父ちゃんと子供三人で小豆取りに行ってもらふ。保美の事が案じられたが、一寸も泣かず山の畑の豆の中を転げて飛び歩き、大喜びで遊んで来た由。
10月9日
ぐんぐん障子を開けて 外へ出る。水桶へ 何でも、汚い物まで 投げ込んでしまふ。片付ようとすれば、みんな取って投げ散らかす。二階のボロも 片付ようとすれば、そこら中 まき散らす。お勝手の端に置いてある 靴や下駄を 床の中へ持って来る。薪は 布団の中へ 持って来る。にこにこして 丸で 大名の子の様な、大らかな笑い顔を して居るのを見ると、怒る訳にも ゆかず。
10月11日
よく眠って居るので二階の屋根へ出て干し物をしていると、とんとんとんとんと小さい足音。はて?と 思っているうち、保美が にこにこして、窓から顔を 屋根の方へ出すので びっくり。とても可愛い と思って 抱きしめる。階段を とんとん 上がって来るのだ。
10月13日
待ちかねた乙事の諏訪神社の御祭りが明日となる。いろいろと用意をしようとしても、なかなか邪魔をしてさせない。眠った隙に大急ぎだ。
※ 此処にて3冊目、ぴったり終り↑
裏表紙にスナップ写真のメモあり・・・ 10月8日午前:仁、美佐子リレー姿。保美三輪車。野球四人(父ぬけている)。八ヶ岳背景四人(仁ぬけている)。
此れより【4冊目】↓
10月14日
早朝より着飾って乙事の諏訪神社の御柱祭に家中で出掛ける。天気は好し、嬉しく行く。お父ちゃまの背に保美ちゃんおんぶ。(各地域毎に、其れ其れ祭礼の設定日が異なる)
最初に 政子さん家で 御馳走になる。見世物などの 手技を見て、兄ちゃん
姉ちゃん、座り込んで長時間見る。父母、保美と 諏訪社を見に行って来て、しづかさん家へ呼ばれる。そこで一泊。夜遅くまで 先生方も来て 御馳走になり 皆も 騒ぐ。保美は おしっこ、他人様の家で失敗しては困ると思ったが、二度程 しっこしに 起きて 失敗せず、ほんとうに 嬉しかった。皆と一緒に ころころ遊ぶ よい子。縞の、母の古着の 仕立て直しの 雪袴を 穿いて、ころころ走る 可愛い子。
10月15日 晴
朝食いただいて皆でしづさんの家をお暇して、乙事をあちらこちら見ながら、照代さんの家へ行き、昼食を御馳走になる。方々へ お呼ばれしているので、あちこち歩く。靖弘さんの家へも呼ばれて、綺麗な座敷で御馳走になり 休ませてもらい、おみやげ沢山戴く。
仮装行列、長持、御柱と大賑やか。仁兄ちゃんの受持の佐久惣兵衛先生の御宅へも寄せて戴き、御馳走になる。先生、大変酔って大御機嫌だった。
兄ちゃんは 先生の家で泊めて下さる事になり 後へ残る。和子さん家へも呼ばれて、ゆっくり御馳走になる。方々、大もてなし して下さって嬉しかった。
帰途は 運送に乗り、和子さん家の庭から 上羽場の道まで 乗って来る。ガタガタと揺れる道を大勢で乗り、母の背に保美ぐっすり眠っていた。一杯のお土産などリュックサック重い程。十時近く家に帰り、やれやれ よかったと 床に。
10月20日
お祖父ちゃんより三沢も御柱に来るようにと手紙が来た、ので行く。お父様は職員旅行で関西へ十八日お出掛けになって留守。汽車へ乗ってきょろきょろよい子でおんりして居る。三沢へ夕刻つく。久しぶりで大きくなった保美。
休みっこ無しに仁、美佐子も飛び出して遊ぶ。保美も広い家で嬉しく遊ぶ。お祖父ちゃんも、おんぶして下さって、重いので 肩を張らして しまった。
机の上の食べ物を掻き廻すので、お祖父ちゃんが、保美の手の甲をしっかり捻り上げて離さない。痛いのを我慢してじっと祖父の顔を見て居て、そのうちに黙って目を伏せてしまふ。が、じっと泣かぬ保美。真剣に怒る祖父。かつての日、仁のやられた苦い経験だ。その時より余ほど、祖父も 世話を やかなくは なった訳だ。
10月21日
(旧)川岸村中の 各神社 御柱祭。今日は 山出し の御柱 引きだ。のびのびした、和やかな祭りだ(各地区の御神木は小ぶり。又、木落としも無い)。
お祖母ちゃん一生懸命ごちそうだ。曳矢様の御柱引きが よく見える。 母はパーマネントに、入浴後行って、保美を抱き乍らやってもらふ。さんざになる(散々な目に会う)保美、辺りを あっちこっち 歩き廻り、ようよう 時間迄やってもらふ のを待つ保美。 後で、熊野社へ舞台の見世物に一寸行ってみる。仁兄は2時まで活動(映画)みて、祖母と美佐子は12時頃まで居て帰る。松沢義が祭りに三沢へ来る。お祖父ちゃん、ぐうぐう寝ていて起きぬので母出る。
10月22日
御騎馬も出る。曳矢の拡声器が早朝より、素敵にうまく放送しているのが、よく聞こえる。方々でぺったんぺったん餅突く音がする。祖父保美を首んばして外の御騎馬を見る。重い重いと云ふ。なかなか賑やかな御柱祭だった。
祖母の言。「よく色々見ておかぬと(7年に1度だから)、もう此の次には 見られぬかも知れない」と。 夕方まで手踊り、御騎馬いろいろで賑やかい。とに角よい御柱祭だった。お父ちゃんも 来られれば よいのにね。
10月23日
早朝お父ちゃん旅行からお帰りで三沢の家へ帰る。御機嫌よくお帰りで一安心。お土産に お祖父ちゃんに、メリヤスのズボン下、たばこの入れる器、肩叩きと、なかなか思い付きの お土産だ。仁兄ちゃんは 上諏訪へ 一人で行く。
本郷より美術館みに行くとの事。先生と生徒と一緒に来る約束で、こちらから一人で行く。母と 美佐子と 保美と 御用に。先ず 山大 (屋号) の 敬子ちゃんの出産祝に。お昼食 いただき、丸房 (屋号) へ行く。
いたづら相変わらずおじちゃんとして喜ぶ保美。どっさり芋を戴き、姉ちゃん重い重い。ふじ電気の宮坂様方へも寄り、あちこち用事して六時のバスにて帰る。父はぐっすり一眠り、三沢で休んで居る。
10月24日
局の用事も手間取る。重い荷物を皆で背負って、バスで(岡谷)駅まで。駅の花自動車(祭り用に装飾されたバス)の省営(国鉄)へ乗って上諏訪まで。
あちこち買物して、三時で富士見へ。よっく(相当)上の所まで来て、輝夫さ(♪サは人廉の男性に対して語尾に付ける、親しみを込めた尊称♪)の運送に乗せてもらふ。 ああ家程 よい所は ないね。さあ、お父ちゃんのお土産の公開だ。色々飛び出し皆大喜び。ころころよい音のするトラック、ビューンて鳴りながら廻る独楽。いろいろ一杯の オモチャや お土産。家程よいものは ないなあ と思ふ。美しい絵はがき。
10月27日
「バカ バカ バカ」と大声で言ふ。「まあちゃん、まあちゃん」 と はっきり言ふ。
10月28日
乳へ喰い付いたり指へ喰い付いたり、気に入らぬと猛然と掛かって来る。
まな板の上に立って、「万歳、万歳」をして 嬉しがる。机の上の物、何でも
手掴みで 放ってしまふ。
10月29日
宿直の父へ「行ってらっしゃい」を、まて(丁寧)に、何度もぺこぺこ頭を下げる。三輪車へ 一人で乗って、まねっくり(前転がり)突きそうになる。
夕方、大便を、たっつけ (モンペ) の中に、まり込む。此の頃 失敗ないのに、腹の工合が変なのか、珍しき事。
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