9月1日
二百十日の震災記念日は又、関東地方が台風で大荒れの記念日となる。
便が出ないので浣腸してやると出て、せいせいする。大きい蚊帳の中でよく眠っているが、目をさますと大きい声で泣いて泣いて、抱き上げねば黙らぬ様に、抱き癖がついて困る。
目もはっきり物がよく見へるらしい。音も聞こえて来たらしい。ぷうっぷうっと口を吹く。あごが固くなったのか乳首を時々かむ。歯がだんだん出来てくるのかなあと思ふ。背中で時々ぷうっぷうっと口を鳴らしている。
夜、美佐子、首の所が痛いと言ふのでみると、喉の所にグリグリが出来て腫れ上がっている。可哀想に、きっと余り体のまだ小さいのに、重い子守を長時間させるからと 母、申し訳ないと思ふ。夜中にも 美佐子の事が とても心配だ。
夕方、仁おんぶ。本を見てじっと動かないので、保美が気に入らず、背中で
ひゃあ ひゃあ と 泣き出す。すると 慌てて くいくい 上下に揺するので、なかなか黙らない。


9月2日   雨
雨、雨、おむつが じめじめして 干かぬので 炬燵へ 沢山 炭を 継ぐ。
昨夜たらいのお湯へ入った保美は、きれいな顔や手や足だ。汗くさいほど
幾日も入浴出来なんで(出来なくて)可哀想だったが 一安心。
お父ちゃん出勤前、可愛い保美を抱いて 時間が遅れそう。丸い目、ぽちゃぽちゃした頬、可愛い唇。 仁、美佐子も 「可愛い!」 と言っては、舐めたり
擦ったり、吸い付いたり、少し 気をつけるよう 言っても なかなかだ。
幼児特配の砂糖の切符の登録が今日だ。
夜中おしっこが出たいと何度も首を左右にぐんぐん振って、そのうち泣き出す。取り替えてやると、気持ちがよいので其れへ又まる。又首をぐんぐん動かすので取り替えて乳をふくませると、いっぱい呑むと、くいっと横を向いて首を二三度動かして ぐっすり眠る。


9月3日
白い葡萄とデラ葡萄、お父ちゃんが上諏訪の委員会の御帰りに買って来て下さる。それにぴちぴちしたわかさぎを沢山。美味しいお乳が出るでせう。
美佐子は前歯が上二本目が出来はじめて来た。永久歯だ。仁も横が一本又出始め、鼻汁がさんざん言はれたのが、注意するのか、出なくなって不思議な位。 夜、大やの入浴に呼ばれ、お父ちゃんに入れて戴く。かなり強い湯でも、大きい息をして入り、すぐ気持ちよさそうに入る。
桃太郎の様に 二重あごで、あごの下を洗ふ時は 仰向けないと 洗へない。
夜は おしっこの回数が少なく、よく眠る。


9月4日   曇
肩が痛い美佐子が、又おんぶしてくれる。心配ながらおんぶしてもらったら夜また気持ちが悪くなって泣き出し、揉んでやると好い気持ちだと云ふ。二メ匁(7.5kg)もある重い子をおんぶ故可哀想と思ふが母が体が弱いので、つい頼んでしまふ。 午後父と仁は初めて蜂追い(地蜂の巣を探す出す為に、目印の綿を付けた蜂の跡を追跡)に行くが、蜂でなく 胡桃を取って来る。


9月5日
朝目ざめて一人で、「おほうん おうん」などと話をして御機嫌だ。桃色の柔らかそうな小さい舌をちょろんと出してにこにこしている。機嫌のよい時はよけい舌を出して笑ふ。その舌を一寸つまんで お醤油つけて食べたら どんなにか
美味しかろう と思ふ程 可愛い舌だ。
鈴のガラガラを持たせたら今迄は直ぐに落としたが、今朝は違ふ。じっと観ていたら、何時までもがらがら振る。落ちそうになったら一寸持ち直す様にして又ふる。かなり長い間ふる。指の力が強くなって来た。
昼食にしようと机の上に座り、ふと見ると、お父ちゃんの弁当箱が空のまま。
さあ大変どうしよう。どんなにお腹が空くでせうに。今朝子供達はもろこしの弁当だったので、すっかり詰めて上げた気で居て。大急ぎ仕度するが、天気がよいので日当たり一杯干した物があり、取り入れて片付け二時になる。来客もあり、苛々して出て行く。
こうもり傘の柄を折ってしまったので短かいが、腕を高くしても上手くゆかぬ。保美の頭へ、注意していても 時々ごつんごつん と 当たるが、黙っておんぶされている。炎天で茹だる様な暑さだ。
美佐子が廊下で雑巾がけをしていた。まだお父ちゃんの授業終へず二年の席(教室)で待つ。ようよう手渡し出来て ほっとする。美佐子の先生の所で
色々お聞きしたりして、お席の上で おむつを替えて、三浦先生に 背中へ
おんぶさせて戴く。
三井先生にも、「まあ先生そっくりの可愛い赤ちゃんね」 と言はれる。
帰り、ぐっすり背中で眠る。暑い日で気掛かりだ。夜一寸咳きをする。


9月6日
どうも咳をする。くしゃみをする。昨日のせいで工合悪くしたらしいので心配だ。救命丸や咳止めをくれて、泣かせぬように子守る。


9月7日
もろこしを いづみさんの家から戴き、美佐子 帰校して直ぐもろこしを うでる。一番先に威久子ちゃん(戦時中に病死した次女)へと上げる(お供えする)べく小手塩(小皿)に乗せて持たせてやる。(美佐子に)注意して「保美の上を決して通っちゃいけないよ」と、それなのにどうした事でせう。すっかり寝て居る障子側を歩いたらしく、高い所から煮えづくりのモロコシをことんと、仰向けに寝て居る保美の顔の上に落としたらしく、「ひゃあっ」と泣き出す。
あわてて美佐子は抱いていたが、びっくりして勝手から覗くと、急に美佐子が大声で「母ちゃんごめん、母ちゃんごめん」 と 泣くとも泣くとも。それはそれは大きい声で泣く。保美も泣く。顔を見ると、おでこと目の上と鼻が真っ赤になっている。一目で母ちゃんも胸がドキンとして震えてしまう。どうしたらいいのかと胸が潰れる思い。あわてて胡瓜の水が有り、それをつける。何度も何度もつける。そのうちようよう赤味が少しづつ退けて行った。一番後まで鼻の先と目の縁が赤かったが、夜までには退けてよかったが、しばらくは物におびえた様で困った。
美佐子は母ちゃんに 頬っぺたを三つか四つ ぴしゃんぴしゃんと殴られた。「母ちゃんごめん、母ちゃんごめん」とあやまって泣いたが、保美の痛さを
思って 母ちゃんも 狂った様に 美佐子を はたいてしまった。
美佐子が「父ちゃんには言はないで」 と 困って頼む。
今日も熱っぽく鼻水をいっぱい出して、ちっちゃい鼻垂らし小僧の様だ。
鼻が詰まるので母ちゃんの口で鼻汁を吸ってやる。


9月10日
秋の遠足と云ふのに悪天候。出たすぐ後に降り出したり又やんだり。五目のおにぎりに甘いパンに水、玉子焼きで喜んで仁、美佐子は出て行ったのに、雨にぬれてどうして居るやら。
美佐子は割りに濡れず、仁は四時五十分頃ずぶぬれに濡れて帰る。
母ちゃんのおみやげに しゃくなげを二十本、根のまま採って来てくれる。
保美も襦袢を一枚余分に着る。
夜、生花会公民館にあり、お父ちゃんお疲れなのに九時頃から十二時半までおんぶして居て下さった。咳きが出るので連れて行けずにお父ちゃん肩が痛そうだった。


9月13日
涎れ掛けの 新しいのを縫ふ。もう下に なかなかよい子で寝ないので、ぎゃあぎゃあ喚いて、抱かるコツを覚えてしまふ。 もう四日も降り続く雨だ。炬燵へ火を入れる。おむつも干かず 困り切ってしまふ。
十二時近く、小口貞行さん来る。商売の事で。お勝手の水の使用が不便なのと雨なのに、実にお客様などの折は 困ってしまふし、火を焚くのにも煙が詰まる家なので、保美が咽ては困るし泣くし実に困る。泣いた時、小口さんが何時の間にかお子守して背中へおんぶして下さる。
夜割合よく眠ったが昼間は涎をだらだらたらす事たらす事。涎掛が直ぐびしょびしょだ。ぷうっぷうっぷうっと盛んに云ふ。歯の出来る前触れだろうと思ふ。


9月14日    (生後5ヶ月目) 
ようようよい天気となり洗濯物が乾く。涎れが出る。咳が出る。蝿が多くて寝て居る顔へたかる。何日か入浴せず、顔が黒っぽくなるが、さゆりさんのお母ちゃんに あやしてもらって、にこにこ にこにこ。
寝顔の可愛さ、食べてしまいたい程だ。
首がしっかり座って、くるんくるんどちらでも自由自在に動く。ポンドを借りて測ってみる。今日で丁度五ヶ月目だ。上目二メ百匁(7.9kg)で、着物とりかへて仁に測ってもらふと、上目の卦の差引きを間違へ、百日も余計に計算して、母ちゃんは、そんなに増えたのかと嬉しくて鼻が高くなった様な気がしていたが、よく後で計算しなほしたら一メ八百九十五匁(7.1kg)だった。
でも順序よく 加はって行く体重。ぼちゃぼちゃ あごの二重。盛んにぶうぶうぶう、よだれが出る出る。


9月18日
頭をお父ちゃんと二人がかりで刈る。後の横帯の様に、頭がはげている所が多い。枕に頭をつけて寝て居る時、ぶんぶん振り回すから余計にはげてしまふだろう。顔が違った様に、クルクルいたずら小僧の様だ。
一日と云はれない、いろいろが利口になって来る。何か見せると手を出す。片方へ持たせると、あわてて両手でつかまへる。鈴のおもちゃも、ぐんぐんと振り回し、持つ時間が長くなった。相変わらずよだれが一ぱいで着替えさせないと首の下のあごの所がびっしょりになる。
用事があり寝せて置くと、なかなかよい子で寝ないで泣く。そのまま泣かせて置くと、もう大きな声で泣ききって、びっくりして抱き上げてしまふ。
それを覚えてしまって、よい子で 寝ていなくなり、抱き上げると ケロンとして、にこにこしている。
重いのに兄ちゃん姉ちゃんも変わり番こにおんぶさせられて可哀想に思ふ。友達がとんとん呑気に遊んでいる時でも、いつもお子守りで、母も可哀想に思ふが保美があまりに泣くのでつい。


9月19日
ここ何日か入浴せず保美も汗くさい。たらいで入浴させようと思ふが風邪ひきじゃあいけないと思って考へる。甘いおいしいぶどうを昨日父帰って来て下さる。汁を毎日二、三粒与へる。湯も少々与へる。入浴にさゆりさん方へ行き、母久しぶりに入れ、父に洗って戴きとてもいい顔をして入る。


9月20日
大きい声できゃあきゃあ笑ふ。きいきい大きな声だ。もう何かいたづらしたい様なまるい目。くるりんくるりんと、体をだっこしていると動かす。
とても力が出て来て物をつかむのが上手になる。片手と片手と物をあちこちにするようになる。
久しぶりに昨夜入浴して色が白々とよい子になる。夕刻母急に悪寒がして吐く。お花の会に連れて行こうと思ったが、お父ちゃんお守して下さる間おいて行く。行く途中又吐く。苦しく、帰りもようようだった。
午後美佐子ラジオに合わせて手振りよく踊るを、にこにこ笑ってみる保美。


9月21日
とうとう朝起きれない母。仁に御飯を炊いてもらふ。食べぬと乳が出ないし、食べれば吐くし困る。せんぶりを沢山のみ朝方保美と一緒にとろとろ休む。乳を時々はく。母のせいだろう。便がほんのちょっぴり出る。いやな便だ。
体が疲れても泣かれぬ様おんぶするのに重さがひびく。


9月24日
乳をあごで一寸痛いように噛み、乳首をば引っぱる。鈴のガラガラを口でガリガリかぢりたいらしいが、つるつるつるり滑るので一生懸命口でカリカリする。
物を持たせても 両手を使って持つ。しっかり握る 力の出たこと。ガラガラの
おもちゃを ぐんぐん振り回し、増々しっかり握るようになって来た。くいくい と
体の動かしっぷりのよさ。


9月25日
みさ子が長いこと二時間もおんぶして遊びに行って帰らない。二人の体を案じる事しきり。明日26日みさ子誕生記念日なれど今日休み故、祝いとして、
お寿しを つくってやる。大喜びだ。満八歳のみさ子。よく子守りを して、ぐんぐん 動く 美佐子。
大きくなってゆく仁、美佐子、保美と、三人の寝顔を嬉しく、しみじみと見る。どうか 健康で 幸せで 心美しく成長するよう、心より 祈る。
夜あらびて、あちこち廻る二人。


9月26日
帽子をかぶせても自分で手をやって取ってしまふ。畑の中へ入って、もろこしの葉をしっかり捕まへて手が切れそうで危ない。もう頭が大きくなるので帽子が小さくなる。


9月28日
夜、生花会(活け花と云う字は使わず)にて、お父ちゃんおんぶして下さる。


【9月29日】
夜、茂さん方へ入浴に呼ばれる。お父ちゃん宿直にておるす故、光ちゃんの母ちゃんに着物を着せて戴く。
大人でも暑いような湯へ大きい息をしてでも泣かずに入る。
入浴したのに夜なかなか安眠せず。みたら いなごが一匹 ふところから出て来た。美佐子がとったのが 迷い込んだらしい。


9月30日
夜公民館にて生花会。又サカ代さんにおんぶしてもらって行く。寒いので心配だ。重くておんぶしているうち、ぐっすり眠ったのでよいが、なかなか大変だ。






         
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