【8月1日】
家(実家)に居て、おはぎをつくる。上のブリキヤへ保美の出産祝のお返しに一重持って行く。一体なら(お舟祭り当日の)今日は、お花を見に 下諏訪へ 行く訳なのだが、保美の事が心配になるので行かず、家に居る。
お祖父ちゃんも、よいよい おんぶしたり、だっこしたり、保美がよい子で居れば居たで 「もごい(可哀想だ)」 と云い、泣けば泣いたで 「もごい」 といい、お祖父ちゃんは、保美を可愛いがりきれない様だ。夜もよく眠る。おしっこ出そうになると、夜中外でやってやるので夜のしじまの中を響き渡る大声で泣き乍らやるが又後は よく眠る。


【8月2日】
朝はお祖父ちゃんが、きっと起きぬけに、そうっと保美を覗きに来る。
今日は奉納会の後片付けに下諏訪へ。途中でふじ屋へ寄ったり千弘さんの家へ寄ったりして十二時頃下諏訪へ。
誰も来ないので、ぼつりぼつり大体片付けてしまふ。保美よい子でやった。
終わった頃、斉藤さん、片倉さん来て 手伝ふ。遅くに 家へ帰るが、無事に
済んで ほんとうに よかったなあ と思ふ。


【8月3日】
暑い暑い炎天をお重を下げて御祝の御返しに行く。早くからお祖母ちゃんにおはぎを作って戴いて、持ち出すのにも、子持ちは 大変だ。
背中で うだった様に 暑いので、静かに おぶわれて いる。
丸房(屋号)へ久しぶりに行き、おんりして、ねんねで、やっと、らっくりする。よい子で、おしっこやるのでほめられる。涼しくなるまで居て、小口貞行さん方へ寄り、貞行さんに おんぶして もらった。
久しぶりにヤマ上(屋号)の一子さん家に寄ったり、不二ちゃんの母ちゃんの友達の家へ立ち寄ったりして遅くに帰る。家の近くまで行くと、仁と美佐子が飛びついて来た。今日夕方七時で、二人で三沢へ本郷から、休みになったので来たのだ。急に賑やかくなった。
昼間ヤマ大(屋号)のおばちゃん、御祝に来て下さった由。


【8月4日】
虫干し。一日 家で 美佐子にお守りしてもらふ。仁は 朝から水浴び(すぐ下の天竜川)で、家へ 昼食にも帰らず、やっている。夜、ぐづぐづ 言ふと、慌てて
保美を よいよい おぶい 歩いて下さる お祖父ちゃん。


【8月5日】
今日は又おばあちゃんにおはぎを作って戴いて御配りだ。兄ちゃん姉ちゃんと一緒に。ふじや、ヤマ大、と寄る。やま大でゆっくり御ご馳走になって、それから 久しぶりに、小口安人先生の御宅様へ伺ふ。暑い道を、背中の保美も
可哀想だが、よい子だった。


【8月6日】
今日も早朝、おはぎをこしらえて戴き、美佐子と保美と、上諏訪へ御配りだ。伊藤へ先に一寸寄り、東榊町の小菅へ行く。ぼちゃぼちゃ肥えて居て、うらやましがられる。涼しい座敷の蚊帳の中に寝せたら、12時頃から4時近くまで起きない。帰る時間が来るので無理に起す位にする。よく眠った。
伊藤へ来て入浴する。気持ちよい温泉で伸び伸びと入るのはいかにも嬉しそうだ。伊藤のおぢさんがあやすと「ほうん ほうん」と、いい顔で何か云ふので、こりゃいい子だなあと 頻りにほめられる。ゆっくりして買い物して帰る。


【8月7日】
おぶすな(産土)様 熊野神社へ初詣で お天気が上々だ。よいお天気の時に是非お参りしたいと思っていて、ようよう今日お詣りに。
朝三時半頃、仁と二人で御先祖様のお墓の草刈に。お祖父ちゃんが後から来ると思ったら 保美をおぶって、よいよい して居て、「保美が大事だでなあ」だって。
保美が来ているでと又上諏訪から叔母ちゃん二人で来る。仁は相変わらず水浴びだ。おぢいちゃん喜んで保美の話ばかりだ。


【8月8日】
朝、保美の眠っているうちに小麦をしょってバスへ乗って岡谷の市役所そばの農業会へ。 そうめん、昨日行って来たので今日はそれを取りながら、仁、美佐子と一緒に岡谷病院へ。保美の健康診断と母の体をみてもらいに行く。幸い保美は、健康で申し分なしとの事。母が脚気なので心配だったが、やれやれと思ふ。お弁当持たないで行ったので子供が空腹になるし 暑い炎天を
歩かせて具合が悪くなってはと、店へ入って餅まんじゅうと くりパンを 買って
食べる。金 百五十円也。物価の高いので、びっくりするほど 金が かかる。
昼過ぎ帰宅後、橋原の川向ふの曳矢様へ保美の安産の御願ばたしに行く。小さい底なしの柄杓を上げてくる。美佐子も一緒に行く。


【8月9日】
いよいよ本郷へ帰る。朝から大忙し。昨夜 荷造りしたが、いろいろ持つ物が
多くて大変だ。 「いい子で大きく成れよ」と、お祖父ちゃんと お祖母ちゃん。
保美を仁兄ちゃんがおんぶして、母が重いリュックサックを背負ふ。美佐子もリュック。いつの間にか二週間を過ごした三沢とおいとまして九時に乗る。
きっと駅へお父ちゃんお迎へに来て下さるに違いないと、お父ちゃんの事を考えて元気で汽車へ。汽車の中もすきずきで、保美を下ろして一寸 抱き 又
兄ちゃんに おんぶしてもらふ。 いよいよ富士見だ。駅へ下りたけれど、お父ちゃんの姿が見えないので、がっかりしていると、改札口を出たら、ひょっこり陰から出て来て下さるので大喜び。お父ちゃんの顔は、埃だらけと髭だらけ。お髪は伸びて、お留守中 刈ってあげる人も居なくて 大変だったで事でせう(しょう)に。 母がおんぶして、荷物は全部お父ちゃん自転車で。埃りの暑い道を、てくてく 上る。少し行くと母は疲れて歩けない。何度も何度も休み休みして二時間半もかかり帰る。途中キャベツの荷を運送がつけて通る。材木の荷を満載してトラックが通る度毎に、埃がもうもうと目も口もあけられず、砂漠の中を通る様だ。遠くへ逃げては又歩く。来る人々の顔が真っ黒だ。思はず吹き出したくなる。
家へ来ると涼しい、大涼しい。畳を上げて、すっかり消毒薬で きれいにして
ノミの出ぬようにして下さって有って、保美も皆も 安眠が出来て 嬉しい。
急に気がゆるんだのか、疲れが わかる。


【8月10日】
お父ちゃん宿直。仁、みさ子、村へ来た芝居見物にゆく。お花の会、公民館に有り、保美を おんぶして 教へに出る。サカ代さんに 行き帰り、おんぶしてもらって、授業中は 母の背中で ぐっすり眠る。重いこと重いこと。


【8月12日】
夜、下羽場の生花会。置いて行ったら、泣いて泣いて、お父ちゃん、よいよいして大困り。


【8月13日】
座敷のざぶとんの上へおむつを当てないで、ごろんと転がして置いたら、弓の様に反っては段々動いて、三十分ばかりのうちに座布団の上をぐるぐると、とうとう一と廻りする。大運動会だ。力が出て来てうれしい。金太郎の様に太い手足で ぐんぐんと動く力。


【8月14日】 (生後4ヶ月目)  体重一メ七百四匁(6390g)。
便が出ないので浣腸する。今日は満四ヶ月になる。お盆で、美佐子ちゃんは きれいな服でうれしそうだ。お父ちゃんは日直で 学校へ。朝から 方々のお家から お餅を沢山いただく。山の中の特権だ。お乳がいっぱい出る。あやすと大きい声で、きゃっきゃっと笑ふ。両手を口へ突っ込んでしゃぶる。


【8月15日】
山の中のお盆は静かだ。ちろちろ子供がきれいな服や着物や新しい下駄をはいて喜ぶくらいのもの。それに十七日の祭りを控えているので尚のことお盆らしくない。お父ちゃんと仁は汽車で岡谷へ。第一仲良し組の同級会、堀さん宅へ。仁は三沢へ皆を代表して墓参りに行く。
家では 母ちゃんと保美と。美佐子は 遊びに。


【8月16日】  (日付のみ)


【8月17日】
午前十一時、夏祭りにて、総代へお宮詣りの時、届けを出した子供に御祈祷して下さる由の手紙を戴き、行く。
丁度 御祈祷はじまったばかりで よかった。他に五人程。お払いを一人づつやって戴き、紅白の御供を戴く。
お父ちゃんが多忙で、家に人が居ない方がよいのことに、時間つぶしにぶらぶら其処等を見てまわる。お花の会員のしづかさん、恵さんの家へ呼び込まれて、お御馳走になる。毛布の上でしばらくねんねしたり、みなに連れて行かれて抱いてもらふ。お角力があり、見て五時近くに帰宅。 仁ちゃんは早朝、
三沢から赤いバットを買って戴き、担いで元気に帰って来た。
夕方、お父ちゃん、お角力見に出て、深さんの家で三人がご馳走になり、夜中に帰る。保美と母ちゃんは、さゆりさん家へ呼ばれて夕方お茶のみに。


【8月20日】
晩、公民館のお花の会に置いてゆく。早々目をさまして、お父ちゃん抱いてよいよいお守りしても、そっくり返って泣いて泣いてこりごりだったとのこと。
お乳のないお子守は容易でないのに、お父ちゃんよくお守りして下さる。
申し訳ない。


【8月23日】
母ちゃん一人で寝せて置いて、前で(マエデで一語:前)を刈り、乳をふくませて左の頭を刈り、抱いて後ろを刈るが、右の方がなかなか刈れない。虎刈りに、どうやら刈る。すぐ バリバリした毛が伸びて、暑そうだったが 清々した。
顔つきも 違ったように 見える。


【8月24日】
手で何か掴まへる風が見へる。まだ鈴のガラガラをやっても、持って少し振るが直ぐ手を離してしまふ。


【8月27日】
本郷へ来て母は未だ一度も乙事(おっこと:隣り村)へ行ったことなく、今日は馬市もあり土曜日で仁も休みなので行くことにした。
見る人が皆、「まあ先生そっくりだ。取って付けた様だ」と言ふ程だ。至さんのおばあちゃんが「やあっ」とあやすと急に泣き出して困った。いくらか人の顔が判るのかしら。背中でなかなか重いので坂道もやっとこさ。
馬市も 乙事の組合も見たり、公民館で弁当つかふ。美佐子、学校帰り友達と馬市へ来て一緒にになり、店も出ていて買ふ。デラ葡萄も 汁を保美にも飲ませたいと買ふ。
雨がぱらぱら降ったり止んだり又晴れたり。帰り、学校の庭からこっちは仁と美佐子と替り番子に おんぶして来てもらふ。母 もう疲れて足やっと出る程。仁、美佐子が居た故よかったけれど、重いのでへとへとだ。
お父ちゃん境(信濃境)学校出張帰途、保美にもと 黒の美味しいぶどう沢山買って来て下さった。


【8月28日】
ぶどうの粒一粒か二粒、汁をしぼってスプーンで保美の口へ。何か変な顔をして、だらだら こぼす。まだ吸ふ力が無いのか、知らないのか、よだれと共に
外へ出てしまふ。夜お父ちゃん 保美を座敷の布団の上に置いて、上で手を動かすと、下で 両手両足ばたばた広げて 動かして 大喜びしている。
まるで水泳の王者、古橋の水泳ぶりの様だと皆で笑ふ。ばたばたばたばた、にこにこにこにこ、元気な保美。


【8月29日】
下唇を上あごの内へ入れて面白い口つきをする。指を口へ乳を呑みながら入れて一緒にちゅうちゅう吸う。葡萄の汁をしぼり一回くれる。


【8月30日】  体重、一メ八百十三匁(6799g)
背中へおんぶすると、もう手を出して直ぐ髪の毛を掴んでなかなか離さない。力を入れてひっつる(引っ張る)ので毛が抜けてしまふ。美佐子は耳や首を
きゅっと 掴まれて「痛い痛い!」と 悲鳴を上げる。
毎日学校帰ると、よく長いこと、美佐子は 重い保美を おんぶしてくれる。又 寝て居て「ひゃあひゃあ」泣くと直ぐ起して抱いて、子守ってくれる。膝の上へ ちょこんと抱いて御飯を食べたりする。子守が上手だ。
(保美は)もう、おしっこも やってやる度、外でやるし、大便も お尻を まくって
やると 気持がよいので、外でやる度数が多い。黄色い よいのが出るが 時々
おならばかり出て、血っ散る(血が混じる)ので、浣腸をしてやるようにする。
夜、サカ代さんにおんぶしてお花の会に公民館へ。花菖蒲の難しいのだので時間が掛かり、背中が痛いほど保美は重く感じる。帰り、サカ代さんにおんぶ。途中雨にあって困った。すっぽり スカーフ掛けて来る。


【8月31日】
ラジオで盛んに台風の予告をする。関東地方が大さわぎだ。雨でおむつが困るので炬燵へ火を入れて乾かす。刻々に台風の被害が入る。夜に入って通過した地方の甚大な被害を聞き乍ら、その人の身の上を思い、寝ている我が子の幸を祈るに切なり。







         
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