【6月1日】 
大やにポンド(秤)あり。お借りして体重はかる。壱メ百五十六匁(4335g)。前より少し体のかげんが悪かったか、減っている。

【6月5日】    また かんちょうしてやる。

【6月12日】
大やで早めに湯に呼んで下さる。家でたらいで今迄入れたが、もう体が大きくなってしまって容易でなくなった。両足を踏ん張ってぐんと蹴ると頭がたらいの縁にごつんとぶっつけるようになるし、胸は湯から出てしまふし、とても元気でお母ちゃんの手にはおへない。お父ちゃんと手伝って戴いてやっとなので大やの湯へお借りして入れてみる気になり行く。お父様、今夜宿直なので大やのおばちゃんにお願いして裸にしてお母ちゃんの入っている所へ連れて来てもらふ。
かなり熱い湯だが、母の体に触っているので安心して入る。初めて大きい湯に入る。この母の肌へしっかり抱き締められて、きれいなお湯へたっぷり浸かって いい気持そうだ。着物もおばちゃんに着せてもらふ。入浴した故一晩中よく眠るかと思ったが、一時頃から目ざめて四時頃迄ぐざる(グズグズする)ので、母も抱いて よいよい歌いながら眠らせようとするが、下へ下ろすと駄目。

【6月13日】
兄ちゃんと姉ちゃんと 替わり番子におんぶしては、外に出てもらふ。成るべく陽に当て丈夫にしたいと思ふ。
外へ出ると、もう笑ふか?とみんなに訊かれるが、保美はすましている。一人でよい子で目をあいている時、産土様にあやされると申すか、時々にこにこしてはいるが、まだあやされても なかなか笑はない。早く笑うとよいと待たれる。 母が あやしてみる。二度とも笑ふ。
父も あやしてみる。やっぱり笑ったが、また後は笑はぬ。


【6月14日】  二ヶ月目  
体重 一メ二百五十匁(4688g)。 おむつ取り替える度、便が出ている。お腹がどうかしているらしい。救命丸をのませている。母がげんのしょうこ(野草:煎じ薬)を呑み、乳からゆく様にする。
明朝、父が東海道の方面へ学校の御用でお出かけになるので、夜中に眠らせなくてはと 泣かせぬ様に抱いてねんねする。が腕の中にいるうちはよいが
下へ寝せると直ぐに泣き出す。毎晩毎晩1時から4 時頃まで起きている母も、もう頭がぼんやりしている。 口をあいて胸の所で「はあはあ はあはあ」 乳を
欲しがる有様を可哀想と思って、よっぽど乳をやろうかと考えるが又やめて、
いも(もう)少しの辛抱かと思ふ。


【6月15日】
夜中とうとう一寸乳を呑ませてしまふ。五月二十七日夜より 今日までの間、夜ねつく時、九時半頃やって朝の五時まで乳を与へなかったが、どうしても泣いて泣いて、母もよいよい抱へて夜中を座敷を歩き回るが、母の喉もかわく故、やっぱり こんなに喉が 渇くのかと 乳を呑ませたら、どっくん どっくん 美味しそうに たんまり呑んで ぐっすり眠り 五時まで 泣かずに眠る。


【6月16日】
やっぱり乳を呑ませると、よく眠った。雨の中をおんぶして、さゆりさんの家のお湯を借りに行く。ゆっくり ぬるい湯へ入ってよく洗ふ。ぐんぐん動くので危なっかしい。たけみちゃんがおんぶしてくれた。


【6月17日】
蝿が出て 顔へ たかって可哀想だ。今日は お父様が 東海道方面から学校を視察して、そのうえ 横浜に 貿易博覧会があるのを見物して 東京へ出てから御帰りになる予定なので、仁と 美佐子が 富士見(駅)まで お迎へに 三時の汽車を思い 行くが、その汽車では 御帰りが 無かった。 がっかりしていると、その次の 六時で 御帰りになる。おみやげは何?
お兄ちゃんとお姉ちゃんには 箸箱と 象牙のお箸。保美には紅色のきれいなきれいなセルロイドの鯉と竹細工の可愛いお箸と、赤いきれいなお椀と黒いお椀を買って来て下さった。食初め の時に 用ふる様にと、とても小さい可愛らしいのだ。兄ちゃんも姉ちゃんも うらやましそうだ。赤い鯉を飾って置いたが、いぢられて壊されそう故、保美の欲しがる時まで箪笥へ入れて仕舞って措く。


【6月18日】  晴
下羽場のお姉ちゃん達、文化部と別に生花(活け花:華道)会を開き度い由にて、いよいよ今日より開き、母講師に頼まれて行く。お父ちゃんに泣いたらみて戴く事にして、お乳をくれて 寝せつけて行く。 十時 近くから 十二時 頃
帰って来ると、お父ちゃんが よいよい だっこで お守りしていて下さった。


【6月19日】
ほおーん ほおおん と大きい声で 一人でお話するようになる。二階で聞いていてもよく聞こえる程大きい声で機嫌よくお話する。手餅もだんだん上手になり、親指を上手に 口の中へ入れて、ちゅうちゅう 音を立てて吸ふ。初めは
指で 目や顔を突付いて 危ない様だったが、本当に上手になった。
便が なかなか よくならない。大きいおならをして びっくりする程だ。天井からぶらさがっている美しい色の紙の玉をじっと眺めたり外を眺めたり、目の所へ何か近づくと ぱちぱち目ばたきをする様になった。
両足を ぱたぱた動かし 両手を ぱたぱた動かして、よい子で遊ぶ時間が多くなり、仁、美佐子の帰校後のお守りもよくやってくれる。
入浴にお父ちゃんに だっこで入れて戴く。股が爛れて痛いらしい。何回も便が出どうしで 爛れてしまった。 よく洗って、よく暖まって、寝せつけてから
生花会に母行く。帰って来てからも、ずっと二時頃迄ねむり続けた。さらしの襦袢を縫ってやる。
他の人から見ると、まあ よく お父ちゃんに似ている と おっしゃる。


【6月20日】
目がさめると、よい子で 辺りを見回したりする時間が多くなる。目も はっきり
何か 見えて来た らしい。
泣いてぐんぐん枕を乗り出して外してしまう。両手を吸いたい気なのか、袖の布をちゅうちゅう吸って濡らす。体を動かす力が出て来た。
じっと目を見て あやすと、びっくりした様な大きい目を開いて じっと見つめて
いるが、笑い出しそうな顔をしながら、なかなか笑はぬ。
皮膚に ぼつぼつ 小粒の様なものが出来ては消え、又出来たりして困る。


【6月21日】
六十九日目、あやす度毎 笑ふ。いよいよ人の顔がわかってきたのか、張合よくなる。雨でじめじめ おむつに忙しい。


【6月22日】
今日は晴れてきた。組合に何か売り出しあるそうだ。保美をおんぶして行く。まだ母の足が 丈夫にならぬ故、ぼつぼつと 歩いて行く。背中で すぐ 眠ってしまう。局へ帰りに寄って、保美に 五百円の定額貯金の くじ引き付のを一枚申し込む。


【6月23日】   上の伊平さんの野天風呂へ入る。気持ちよさそうだ。


【6月25日】   本郷村民 春季運動会

四時頃雨がびしょびしょ降っていたので今日は駄目と思っていると、五時二十分サイレンが三回鳴り渡る。運動会をやるとの合図に、さあ大急ぎ御馳走の仕度だ。 仁と美佐子が お母ちゃんに どうでも行ってくれと ねだるので、
体の具合を心配しながら 行く事にした。 美佐子が、
「保美に一番きれいな着物を着せて きれいにして来いよう」 と云ふ。
きれいにして 保美も 母の背に 久しぶりに 母は 遠道を する訳だ。坂を下ったら 足が ぶるぶる 動けない。 学校へ 十一時近く 着く。
途中、「赤ちゃんが生まれてお目出度う」 と大勢に云って戴く。お花を教えている青年会のお姉ちゃん達も皆んなニコニコおぢぎをする。背中ではぐっすり眠る保美。大やのたけ子おばさんが保美をおんぶして下さる。日が当たって暑あたりしては困ると、おんぶしてもらっても気が気でなく、すぐ又母がおんぶする。涼しい木陰へ行ってみる。おんぶのうちは何時もぐっすり。
美佐子ちゃんが第一分団の二年生リレーの選手として出てよく走った。この日、仁ちゃんの出たのは 母は 見る事が出来なかったり、お父ちゃん 委員会で上諏訪へ出張で 部落の人達、張合い悪がる(残念がる)。
みな 家々でどっさりの御馳走して、皆で交換して食べっこだ。
三時頃、玉川の神の原、左千夫叔父ちゃん(父の弟)の家のすみ江叔母ちゃん、保美の御祝に来て下さったが、留守だったので学校迄お迎えに来て下さって驚く。すぐ母は保美と叔母ちゃん、千澄ちゃん(1歳)と連れ立って帰宅。千澄ちゃん一泊。這い這いはい子が出来て、おとなしい千澄ちゃん。
美しい純白の絹の帽子に一寸みどりの花の付いた可愛らしい帽子を戴き嬉しかった。それに涎れ掛、白絹、おもち、たまご、かんぴょう、お米等、遠い所をいろいろ持って来て下さるので嬉しかった。
夜は保美も疲れてよく眠らず、ぐずぐず云って困る。顔へ小さいぽつぽつが汗疹の様に出来ている。早くなほしたいものだ。


【6月27日】
お父ちゃん出勤前に保美をあやすと、すばらしい可愛い笑顔で笑ふ。時間の経つのも忘れて、あやしている父。
美佐子がよく お守りをして、おんぶして出て遊ぶ。どうも 反り 返ってしまって
保美の首が 落ちそうな 格好だ。それでも よい気持そうに 眠っている。
兄ちゃんは この一ヶ月位のうちに、自転車の横乗りが 出来るので面白くて、勉強も 何も そっちのけで 習っていた。


【6月30日】
どうした 加減か 何度も おむつを替へる度、便が出ている。
昨夜は、さゆりさん家の 野天風呂へ行って、保美も入って来て、よい気持で
夜中は ぐっすり 眠り朝まで眠ったのに、雨が降るので余計おむつに困る。
美佐子は、学校で腹痛となり、宿直(室)で寝て居て、お父ちゃんに おんぶ
して戴き 帰って来る。





         
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