【2冊目】

12月1日
午前一時、眠りが浅く、ぐずって 手をやってみても 頭が火の様に熱く、乳を吸ふ口の焼つる様な熱さ。可哀想にいよいよと種痘の苦しみがやって来たのだ。どうか軽くて済む様にと心より祈る。 朝まで乳を離し、母の体が離れると直ぐ目をあいて泣き出す。朝、着物を脱がせてみる。いよいよ大きく熟んだ様になって来た。昼間も ぐづぐづ 下に居ると いけない。
夕方暗くなってから、朝から待ちかねていた役場の保健婦さんが、保美の種痘の様子を診に来て下さった。着物を脱がせて見て、これは驚いて母も胸が一ぱいになってしまった程の地腫れがして、真赤な柿の如くに腕の根元から肘までの間が腫れ上がってしまっている。保健婦さんも診てびっくり。今迄中にこんなにひどく腫れてしまった種痘は見た事がないと。されど手当ての施し様もなく、日を降るのを 待つのみ。
夜中も ぐづぐづ乳首を吸い付いていると泣かぬが 後はぐづぐづ云ひ通す。可哀想に、顔も真蒼い色だ。子供のみ やる時に通知もれで、一般の人達のやる時の種痘故、こんなに強くなってしまっただろうと、悲しく胸が痛い。可哀想な保美。

12月2日
熱が高い。目もとろんと、ぐったりしている。  夜は 胸を肌けた母の乳首に
しゃぶり付き乍ら、一晩中腕を とんとん 上下に振り動かしている。
おんぶして組合へ配給とり。あやされても、ようよう 少し笑ふ保美。

12月3日
今迄 皮膚の上を 掌でそうっと撫でたり、やたらの所を爪で引っ掻いてみたりしていたが、今日は乳首を指の先で掴む様になった。指の先でくりくり乳首を掴んでは、知恵を絞り出すだろう。お父ちゃんに上諏訪より保美の薬の咳止を買い入れて来て戴いた。咳がぼこぼこ出るので心配だ。今日は昼間は熱が下がっていた様で、美佐子に おんぶして、少し遠くへ 遊びに行って来たり、降幡先生が遊びに来て夕食を行ったり、母ちゃんも御用があるのに来客では後で仕事がたまって大困り。夕刻ばかに(頻繁に)咳が出るし、熱が又出る。青い透き通った様な顔。にこりとも笑へぬ保美だ。

12月4日
朝三十八度の熱。薬を飲ませる。大いなる肉体の戦だ。保美しっかり。日が経てばよくなるだろう。今日で十二日目となる。まさしの母ちゃんに疱瘡神様を飾るのを作って戴いたので、竹に赤い紙で神様を祀って、それに小豆の御飯を炊いてお祭りする。軽く済ませて丈夫に成る様にとの願ひだ。
乳を くわへて眠る。母、一晩中 乳を しゃぶるので 胸が寒い。

12月5日
だんだん熱が下がって来た。幾分笑顔も出たが、ひどい熱の後なので、手もしなびた様な気がした。

12月7日
ぐんと力んで顔を赤くして、体を持ち上げて起きそうになる。一寸手を貸してやると、ぐんと起きて、這いつくばいにしてやると、足をあっちこっちやったり、手を伸ばして五分ほど遊ぶ。二度程、這いつくばり で 遊ぶ。
おむつが沢山のおしっこでズブ濡れとなり、背中の着物や襦袢までずっくり(ぐっしょり)なので、夜中に そっくり着替える。此の頃 いつも 着替えの物を炬燵へ用意して 寝なければ ならない。
乳首を掴むが、ようよう今夜は元の様に眠る。寝顔をみつめて、ようよう、やれやれと一安心する。

12月8日
にこにこ よい顔で とても元気となり、元の保美に かへる。便をやってやろうと抱いても、弓の様に反り返ってしまって、その力の強いこと。
熱があるうち中やってやらなかったので嫌になり、その上寒いので尚やらない。昨日も おとといも、お大便出ないので 不安だったが、林檎の汁を 三杯のませたら、直ちに おむつの中へ 大便する。が、ああよかったと嬉しい。
保美だけだ。うんちして喜ばれるのはね。
手が冷たく氷の様だ。毛糸で手甲を編んでやる。炬燵へ立たせた後で編んで居るのに、すき棒を欲しくて手を出すので危なくて仕方がない。 もう直ぐ、寝かせて置くと、頭を上げて半分体を一人で持ち上げて起きようとする。

12月9日
明日お花の会があるのに、入浴したいと思っていると、五味本男さん家で入浴に呼んで下さる。有難くて家中よばれて夜行く。久しぶりに保美も入浴だ。先づ母ちゃんが一人で入ってしまって、後、着物を脱がせたり着せたりに困るので、お父ちゃんが一緒に入って、入れて下さる。久しぶりで湯を忘れる位だので保美は泣く。又顔をすっかり覚えて何彼とやりづらくなる。疱瘡も真黒に固まった。

12月10日
きれいな顔、花の様な顔となる。夜は七時半からなので、お父ちゃんに七時頃からおんぶして戴く。二時間程で帰宅出来る事と思っていたのに、十一月十七日の生花展示会の反省会やら役員選挙やら、その後茶話会やらで苛々しながら帰れず。乳もニ三度ぐんぐんと張って来て、保美の事が気に掛かりながら、とうとう十二時過ぎまでも帰れず。何か悪い事でもしたかの様な困った気持ちで帰宅。
お父ちゃんの御機嫌も悪いらしいし、胸がどきどき。保美はぐっすり父の背中でいい顔をして眠っている。お父ちゃんは、揺すると目をあいて泣いてはいけないと思い、体を動かさぬ様にじっとして居たので、気持が悪く、背中も痛く肩も張ってしまったのだ。保美を背中から下ろすと、倒れる様に床の中に。もう二時過ぎだった。
お母ちゃんもお花を一生懸命やって、後で又子供の為にも何かよい事があるだろうと、子供の顔を胸に浮かべてはやるのだ。


12月11日   晴  記念撮影 (母、満38歳の誕生日)
昨日の空模様では降るかと思ったのに幸なる哉、上天気。お父ちゃんも一体なら日直当番なのに変わってもらって、風よけを作ってもらふ。大やのおぢいちゃんも来て 手伝って下さる。朝は 美味しい おはぎの御馳走だ。なぜって
今日は、母ちゃんの お誕生記念日で、満三十八才になった日だ。
朝から美佐子ちゃんにお守をしてもらふ。午後、大やの坪庭で家中で写真を撮る。やまちゃんを頼んでシャッターを押してもらふ。三枚撮る。どうか上手に写ってくれるよう。一枚は母と保美と撮る。何年ぶりかで家中で撮るのだ。嬉しいこと。
かぼちゃをふかしたり切ったり、学校休みの日は、母は あれもこれもと 仕事に欲深だ。子守のあるうちと思い、やる。夜は大やへ入浴に呼ばれて又お父ちゃんに入れて戴く。種痘の黒い固まり、一つとれる。


12月12日
あまり暖かい好い天気で日当りで理髪する。もう手を出してバリカンを捕まへようとするので危ないこと。
3時20分頃、一人で起きようとするので一寸手を掛けると、おむつを当てなかったので体がきいて、ごてんと起きて又ひっくり返り、今度は一人でごてんと這いつくばいになり、又 ひっくり返り、三度続け、又一寸休んで 一人で二度やり、計五度も 起きる練習を 一人でやって、びっくりする。
いよいよ活発な 動作が みえる。
夜、輝男さんの家へ入浴に母と美佐子と保美と行く。兄ちゃんは御勉強で宿題沢山で一人で留守番。お父ちゃんは河西先生の歓迎会あり遅い。今夜は母ちゃんが先に入り、たけみちゃんに一寸子守ってもらってから、おばさんに裸にしてもらい入れる。今夜も ぐづついて泣く。長いこと湯に入らない体で、まだ慣れぬらしい。今夜で2つとも種痘の固まりが落ちた。着るにもおばさんにやってもらって 今度は よい機嫌だ。
理髪して いかにも くりくりと 可愛い小僧となり、何を いたづらしたら よいのかの様な、くりくりした瞳をしている。仁兄ちゃんに 小さい時と そっくりの様になる。家中の愛を 集めている かの様な 保美。
家の屋根への干物の時、保美をおんぶしてやるので、おっかなびっくりで、(恐る恐るで)腰の痛いこと痛いこと。


12月13日
母ちゃんもおんぶし通しで、つい腰が痛くなる。丁度ぐづぐづ寝癖を言って、これから寝せつけて 一仕事しよと思っていると、佐恵ちゃんを おんぶして、
喜三男さんの おばあちゃんが 遊びに来て、夕方まで遊ぶ。
保美のおもちゃも、持っているのまで取って佐恵ちゃんに貸してしまふので、保美が一寸悲しそうな顔だ。遊ぶ人はよいが、もう夕飯の支度やおむつ洗いや一日くるくると仕事をしても忙しいにに、のんきに遊ぶ人の相手は心が苛々して、後が又大忙しで困る。

12月14日
今日も又、丁度 眠らせようと思ふと、佐恵ちゃん連れて おばあちゃん来て、ゆっくり遊んでゆく。背中で保美は 眠ってしまふ。

12月15日
婚礼の生花活けに二人来る。保美背中では、なかなか思ふ様に活ける事が出来ず、子守を兄、姉ちゃんにたのむ。

12月16日
朝まだ外は暗いし、火を焚くととても煙が詰る家で、直接外を開けねばならぬので、煙かったり寒かったりするのに、早く目のさめる保美を母がおんぶでは可哀想だとお父ちゃんは、学校へお出掛けになる迄、背中に暖かにおんぶしていて下さり乍ら、御勉強に一生懸命だ。一番早いお目覚めは保美だ。
種痘をしてから、母の乳を しゃぶったり、手をやったりするので困るし、外が寒いので尻を出して便をするのに嫌がって泣き、力み返って弓なりに そっくり返ってしまふ。

12月18日
昨夜はお父ちゃん上諏訪よりミカンを買って来て下さる。朝保美も小袋一ヶ水を飲む。美味しそうだ。早く、沢山飲んだり食べたりするように丈夫な胃腸をつくり上げ度いものだ。
背中にいても何処にいても、ぶうぶうぶうぶう と、それは沢山の唾を飛ばして口を鳴らしている。歯の所がぼっこり盛り上がって来ている。ひっきりなしに大きい声を張り上げたり、唾を飛ばしたり、ラジオで丁度いい放送を聞き度いと思っていても、保美が大声を出してぶうぶう言ふので聞こえない程だ。
母の顔をすっかり覚え込む。膝に居ては乳をちょびっと呑んでは、むこうを向いて遊ぶ。又のむ、又遊ぶ。又母の懐へ 片手を突っ込んで 片手でいたづらしたり。立ったり座ったり。体を、それは勢いよく、クイッと動かしたり、もう何かいたづらしたくて困っている。
只一つ困る事は、仰向けに寝かせると、力一ぱい喚き立てて一寸もよい子で居ない事だ。少しすっぽかして置いてはみるものの余り大声に泣き叫ぶので皆の方が負けて、つい抱上げてしまふ。兄ちゃんも姉ちゃんも足が痛い痛いと云ふし、美佐子は喉が痛むのは、重い保美のお守の為だ。早く一人で静かに遊ぶ時はいつかしら。
乳も沢山のむので、母の乳も痛い時がある程だ。
みさちゃん腹痛と風邪で床に。兄ちゃん御用いろいろ。午前中はお父ちゃんの背中にいて、ぐっすり眠った。

12月19日
夜中のおむつも沢山のむ乳で、沢山の小水でびっしょりだ。取り替へる時の大声ったら、みな 目をあく 程だ。
もう暮れで、今日は 今年最後の 父兄参観日だが、母ちゃんは 行かず。
保美変な口をして舌を下唇につけて、ばあっばあっ、べぇっべぇっと、面白い顔をする。
今日泣きながら 「うんま、うんま」 と 発音する。
腕の地腫れが未だ退けなくて固くなっている。
眠っている顔の可愛さ。又、林檎の様に美しい色艶だ。

12月20日
夜、公民館で生花会あり。寒いので又保美を置いて、お父ちゃんおんぶして下さる。どうしても時間正確に集まらぬので、帰りが遅くなる。生花をやっていても胸がどきどきしている。一番先に帰途に、サカ代さんと着くのだ。
雪が さんさん 降り出した。そっと家に入って来ると、背中で 大きな目をして笑っている。

12月21日
どっさり大雪だ。すっかり積もってしまって、辺りは 雪 雪 雪。
「うまうまうま、ぱっぱっぱあ」 と 発言する ように なる。

12月22日
昼間割合に暖かだったので、雪の道を 大下の 北原先生方へ年貢おさめに行って来る。雪の道は 滑りそうで 保美ちゃん重い。
夜、下羽場こうもりやで生花会。連れて行こうと思ったら、お父ちゃんお守して下さった。

12月23日    仁兄ちゃん熱っぽく、非常な咳だ。

12月24日
仁も咳でて休校させる。咳が保美に移ったらしく、いやな咳が出て来て体が熱っぽいこと。

12月25日
午前三時半、余りの熱っぽさに、体温計で計ってみると、驚いた。三十九度。うつらうつらしては直ぐ、ぐざる。高い熱だ。手拭湿して頭に乗せては絞るが、湯の様に暖かになる。
朝七度五分。心配故植松ちとせ産婆を呼びに美佐子に手紙を持って入ってもらって、三時頃来てくれた。その時はとても元気でいい案配だと思っていたら、又夜熱が出る。正三さん方より氷枕(赤茶色のゴム製)かりて来てやってやる。 三十七度八分。上下で冷やしてやる。

12月26日   昨日も高い熱で一日中ぐざる。めろめろ泣いては、只ぐざる。
12月27日   雪
昨日昨夜も熱と咳にひどさ。ぐざる保美に父心配して、医者に電話を掛ける。学校を早引けして父みて下さる。大雪の中を来て下さる由、心配して居たが、三時医師来て下さる。割合元気でいたづらしている。人が大勢だと元気付くらしい。先生も長い事お話などして、仁も二人診て戴いて夕刻まで話す。
薬は明日、様子みてとの事。咳がなかなか出る。夜三十八度と熱い。

12月28日
吹き付けた 道なき雪道を、富士見まで御苦労して薬を取りに行って下さる。
甘いが後が一寸苦いのに、与えると、舌をぴちゃぴちゃして、ああああ と 又 口へやると飲む。喉が渇いて美味しいらしい。

12月29日
年越しの生花、公民館にあり。岡谷まで行って来て大変お疲れの父に子守を頼みて行く。なかなかえらいのにお気の毒な。
三時間授業して、大急ぎで帰る。雪がしんしん降り出して来た。腕の中で眠る保美を、疲れるのに父は大事に子守って下さる。
岡谷の三井書店よりミルク缶戴く。

12月30日
熱も薬の効き目か下がって、元気となり笑ひ顔も見えて一安心。咳も遠退き嬉しい。物を与えると直ぐ投げて又取ってやると又投げる事を覚へた。
おしっこやってやっても癖になり、どうしてもおむつの中へまり込んでしまふ。
小さい乳児にさへ虫いる事ありとの事に、医者より虫下し戴き飲ませる。熱があったのか、保美は腹が下る。夜は静かに眠る。
午後三時すぎ頃、大やにて餅ついてもらふ。三升ひと臼。仁も美佐子もお餅を突くところを見たいと大騒ぎ。保美さむいで父が抱っこで子守して下さる。
夜のおしっこが沢山で着物を着替えねばならぬ程だ。外の空気にふれぬ様、中で皆で大事に子守だ。

12月31日
いよいよ 大晦日となるが、冷たい空気に当ててはならぬと、代わり番子に、
ぬくとく(温かく)おんぶしてもらふ。
お勝手の大掃除や、薪割る人、子守る人、皆それぞれ分担で大忙しだ。今急に来たでもないのに気ぜはしい、又忙しい年の瀬だ。
早めにと思っても6時、年取りだ。酒も2升も買え、炭も父俵2俵も買へたり、お餅も突けたり、何一つ困らず心豊かな年取りを心より感謝する。
保美にとっても 初めての正月を 迎へるのだ。お椀や 箸を 出してやって、
いよいよ 一人前だ。熱もなく 大元気となった保美で 家中も 明るい。
さゆりさん方へ先に三人、後母一人で入浴に。保美は又父に抱かれて子守だ。仁兄ちゃん美佐子姉ちゃん、お正月を迎えるのに大喜び。お年玉の袋を、それは それは 楽しみにして 待ちかねる。
静かに眠った三人の子供に、よき年であれと 父母は 祈ってやまない。
ラジオにて除夜の鐘を父母は共に聴く。いよいよニ十五年のよき年を迎へるのだ。







         
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