10月1日
いよいよ寒い候となる十月の声をきく。父職員会にて山へ茸狩りに。組合へ配給とりに 仁におんぶしてもらって 母も行く。帰りは母の背中に保美。途中三浦先生、降幡先生、お茶呑みに寄り夜十一時まで居る。床をのべられないので母の腕の中にて眠る。重いこと重いこと。

10月4日
さゆりさん方へ用事に行くと丁度 湯がわく所で 昼湯をかりる。もう雨の日で、
じめじめしていたのに よかった。熱い湯に大息ついても泣かないで入る。
おばさんに抱いてもらって 着物をぬいだり 着せてもらふ。入っているうちに
美佐子も 仁も 来て 湯をかりる。保美 胃腸が悪いらしく、のめのついた青い便を まる。夜も 大きいおならをする。心配だ。

10月2日
夜は下羽場のこうもりやへ生花会に行く。立ってやるので腰がとても痛む。

10月6日
小やみもなくよく降り続く雨だ。もう丸々三日間ふる。おむつ、ほんとに困ってしまふ。 さんまの配給とのこと、昼頃行く。傘が無く小さい破れたのを差して行くので 保美に濡れぬ様にするのがやっとだ。坂を上るのに へなへなして
肩が重くて痛い。組合長の小池福吉さんが、「ヤスミちゃんやあー」とあやして下さる。大きく成ったなあって。にこにこと笑っている。
米田屋で 帰りには カボチャ や キャベツを戴き、重いので へぇへぇ 云って やっと帰る。母 雨にづぶぬれだ。
お腹が悪く、めた(滅多矢鱈:どんどん)下痢をする保美だ。
昼間は 母と二人きりだので 淋しいらしい。みんなが帰ると 笑顔が違ふ。
みさ子が帰るのが一番早いので、その時は きゃっきゃっ と声を立てて笑って
よろこぶ。何か手にやると、両手でいぢりまわす。
朝は早くから大きい声で一人で、「え・・ー おおん おおん えええ・・・」 などと
さかんに声を上げている。手の握る力の強さ。ねがほの可愛さ。


10月7日
晴れた日は洗濯物に有難や。しみじみ子持ちは太陽の光を有難く感じる。(洗濯機・乾燥機など無く、膨大な量の全てを洗濯板を用いて手洗いした)


10月8日
八日の予定の運動会が九日に延びた今日は朝から御馳走の準備に忙しい。 仁、美佐子が、とびっくら(かけっこ:徒競争)が早いのでリレーの選手となり、二人出場との事。よく成長して行く二人の子に元気づけるよう、いろいろ美味しい物を前より与へて、運動会当日は、うんと美味しい稲荷寿しなどつくる。稲荷寿しは 美佐子は 初めて と云ふ。
保美が 手で 色々いたづらするのに よい様にと、袖へ 上げ を してやる。
紙をやると、ぐんぐんと力一ぱい引っ張るものとして、ビリビリ音を立てて、力んでさばく。
運動会に疲れてはいけぬ故、保美を二人におんぶさせぬよう注意しながらも忙しいし泣かれるので、つい、おぶはせてしまふ。夜中一時頃まで明日の用意をする。仁、美佐子いつもより早く床へ。明日の楽しい想いに安らかに夢をみているようだ。


10月9日  曇、雨
待ちに待った秋季大運動会の日だ。 みんな朝早い。昨夜のうちに美味しい美味しい御馳走をお重へ詰めてあるので早い。お父ちゃまはもう六時頃出かけ、続いて仁、美佐子、元気に出かける。方々の家々も今朝は早い。保美も着飾っておんぶだ。おむつを洗ったり母ちゃんもおしゃれこしたり大忙しだ。仕度するうち中も下に置けば、ぎゃあぎゃあ声を張り上げて泣きつづけるが、ひょいと抱き上げると ケロリとして、美味しそうな 小さい舌を ちょろりと出して笑ふので、腹も立たないどころか、思はづ 頬擦り したくなる。
もう出かけて行くと十番目頃だった。お父ちゃん方職員の置き換え競争の所でお父ちゃんもとぶ(走る)が、とても ごしたそうだった。(ごしたい、ごしてぇ=疲れる:腰痛い→に由来か?)前日二日も徹夜したから、お疲れだったろう。

いづみさん家のござの上に座をかりて、保美だっこする。むこう向けていると、おばあさんの袖を しきりに引ッつり、そのうち 左隣りの きれいな着物のお姉ちゃんが、段々こっちへ寄って来るで 変だな?と思って見ると、保美がそのお姉ちゃんの袖をしっかり引っつって離さず、強く引くので お姉ちゃん段々傍へ寄って来た訳だったので、あわてて母ちゃん謝る。姉ちゃん笑っている。さんざん遊んでよい子だった。
午前中、仁の徒歩一着。美佐子の白うさぎの字を読んで仕度して走るの、第一着。我が子の成長してゆく姿、しかもトップを切って懸命に走る姿を眺めるとき、じいんと胸が熱くなり泣けて泣けて仕方ない。嬉し涙だ。美佐子のリレーも午前中だった。胸に賞のリボンをつけていただいて嬉しそうな仁、美佐子。

昼食は体操場で隣り近所で大輪になって、御馳走の広げっくらだ。交換してあちこちで食べ相いっこする。家の稲荷寿しがまあ一番すてきだったらしい。おまんじゅう も 沢山いただいたり、一年一度の 大お客だ。
保美は 背中でぐっすり。楽に お昼を食べられて よかった。
午後少し競技の後雨となる。折角の楽しみの運動会も中止だ。残念残念。
放送はお父ちゃんの受持ち。すばらしい名文句に 皆 大喜び。母ちゃんも
聞いて居て、嬉しいやら 可笑しいやら、張合よし。
帰途、お花の会員の あやめさんに 途中から保美を おんぶして来てもらふ。
疲れていたので大助かり。
夜は六時頃から 母ちゃんと保美、八時頃迄 ぐっすり ひと眠りする。


10月14日  (生後6ヶ月目)
今日で丁度半年の六ヶ月目。此の前の運動会の残りを今日午後より行ふ。
午前中は授業参観故、大急ぎで仕度して学校へ行く。先ず仁ちゃんの御席(教室)へ一時間目と後三十分程見る。仁ちゃん国語に なかなかハッキリよく お答へする。保美は背中で半纏よりすっかり両手を出して、母ちゃんの毛を引きむしったり、大きい声で、ええええ と言い出す。おしゃぶりを 握らせても直ぐいやになって離してしまふ。美佐子ちゃんの所へも三十分程見て来る。今日は、明日のお家の御用の事を、手を上げて云ふ 授業。美佐子ちゃんは
立って 「お子守り」と答へる。 お父ちゃんの三年一部の教室には、一ぱいの
参観者が 居る 様だ。
午後一時より、いよいよ運動会だ。土手に父兄が一杯となる。照らず降らずの運動によい日だ。背中の保美重くて困っていると、大やのたけ子おばさんがおんぶして下さって、二時間以上も居てもらってよかった。
烏の赤ちゃんで先頭に立ってみさ子が赤い真赤いたっつけで遊戯をする。仁が白い塔とリレーをする。みんなよくやって嬉しくみる。
帰り途、河原の土手の手前で又、たけ子おばさんにおんぶで家迄来てもらいよかった。ひと休みして、早めに夕食すませてしまった時、何年ぶりかでみる菅沢の木川須賀夫さん(和貴伯母の長男)、大きい びく を背負って茸とりに来る。それより夕食、大急ぎでする。さゆりさん方へ入浴に呼んで戴いたので遅くに交代で。保美は母ちゃんと行って来ると、お父ちゃん宴会にて、よい御機嫌にて御帰りになっていた。入浴の折も、もう手を桶のふちにつかまったり、よい子で入る。しっかりして抱きよくなる。
御機嫌上々の時は可愛い舌をちょろんと出して笑ふ。そして舌を出している。夜、母がおいでと手を出すと両手を差し伸べてくる。手を伸べるのは初めてだ。炬燵へ抱いて向こうむきにして、おもちゃを与へておくとよく遊ぶ。
膝の上へ 一寸 こしかける ような風だ。時には 足に力を入れて 立つ。


10月15日
大やの はかりを お借りして かけてみる。二メ百十匁(7、9kg)也。七ヶ月の標準もある故に、間違ったのか知らと思ふ。
仁ちゃんは昨日の疲れているのに、山へ茸とりのお連れになり須賀夫さんと行き、美佐子は いなご取り。一日中 保美の子守も大変だ。一寸下へ 置くと
泣いて泣いてそれは大変な泣き方に、隣近所の手前もある程で、つい抱き上げてしまふ。 夜はお父ちゃん、上諏訪のおみやげの すき焼き鍋の御馳走を須賀夫さんに してあげる。


10月16日
どうもあまり目方が多いと重い間違いかと、いも一度ポンドをお借りしてみる。一匁も違っていない。急に 五ヶ月から 六ヶ月目にかけて 増した体重。
美佐子や仁が、この重い子を、よく二時間も 三時間も おんぶしてくれる。
体の骨が曲がると困る故と思い乍ら、つい 忙しいので おんぶさせてしまふ。
代官子息の保美。大やで急に入浴に呼んで下さるので 父と母と保美と行く。父に入れていただく。熱いけれども 大息をして、泣かずに入る。
しみじみ大きく成ったと思ふ。夜ねる時、頭のひたいの所をみると大きく成ったことを つくづく思ふ。


10月17日
木のラッパを持っていて、歯のせいか、ぶうって大きい息をふいたらラッパがブウーと鳴る。三度もブウーと鳴った。
もう 机の上の物を、何でも掴んでかきまわす。炬燵の傍で 足に ぐんと力を
入れて 立っては、いたづらする。
おむつを 取りっぱなしにすると、両足を まるで力一杯高く はね上げて、音を
とんとん 床に打ちつける様に 足をしては、上下にして喜ぶ。
とんとんとんとん、両足の動きと、喜ぶ顔の美しさ。
眠くなると ねぐせを云ふ。まるで人形の様な可愛い顔だ。寝て居るが嫌で
泣いている時でも、抱上げると くいと止んで ちょろり舌を出して笑っている。
夜、生花会へ下羽場こうもりやへ。重いこと重いこと。


10月18日
雨降りの子持は本当に おむつに困る。もう半年ともなれば弱い布はボロボロになってしまふ。だれも居ない家に母と二人きりでは淋しそうな保美。仁、美佐子が帰ると顔つきが違ふ程だ。
夜中おしっこが出る時くすくす泣いて首を左右にさかんに振りまくる。
爪がぢき伸びる。足の爪を切らなかったら、泣く時に足と足を擦れ合って力を入れるので、爪の傷が出来ているので、眠っている時に様子をみて爪を切ってやる。


10月19日
もう何か欲しそうだ。ぶどうの汁を一粒二粒しぼってのませるが、小さいさじをいつまでもしゃぶっている。味がわかって来たらしい。


10月21日
ふろしき敷いて保美をねせて頭を刈っていると、婚礼の生花を教わりに、あやめさん来り。後ろの方を刈るのに抱いていて貰って、すっかりきれいに刈る。村平さんの家で、伊吹と菊とを 活けるのを みてやる。昼食に 御礼にと 突きたての あんころ餅一重と お寿しのり巻二十本を下さる。空腹だったので美味しかったこと美味しかったこと。夢中で食べた。保美の乳も張って来て美味しかろうよ。


10月22日
乳を呑ませ乍ら、かみそりをあててやる。ひたいを丸くそり、後の方は、むこう向きにして気長にほんの一寸づつ擦ってすっかり床屋さんへ行って来た様に、きれいになって、ますます可愛らしい。


10月23日  お花の会、こうもりやへおんぶして行って来る。疲れてしまふ。


10月24日
隆坊ちゃんのおばあちゃん亡くなって、その御不幸に呼ばれてお父ちゃんと母と保美と行く。美佐子が何の熱か高い熱を出して寝ていて、仁と二人残してお客に一日中夜遅くまで居る。
保美をおんぶし通しなので体が疲れ切る。でもよい子でおんぶしている。


10月25日
朝から雨だ。今日も又和臣さん方へ呼ばれる。背中から下ろすと、「まあ可愛い、可愛い赤ちゃん」と誰かどうかに抱っこされる。


10月26日
今日は早朝から矢沢正三さん方の御蔵のお建前で家中よばれる。いろいろの美味しい御馳走に沢山いただく。夜も大賑わい。父ちゃんも、とてもよい声で歌ったり踊ったりして夜おそくまでいる。


10月27日
雨降りとなる。仁ちゃんにおんぶしてもらふ。寒い寒い日になる。今朝も早々から又正三様方へおよばれする。一日雨の中をお父ちゃんも御蔵の土上げの御手伝ひで腰が痛いとの事。
夜中、保美38度8分の高い熱にびっくり心配で心配でたまらぬ。ぐづぐづと
ぐざって(不快がって)、大変な下痢便だ。それから ちょいちょい、便が、青い 嫌なのが 出どうし 出るように なってしまふ。
おむつが石鹸で洗ってもなかなか落ちないし、乾かすのに大急がし。


10月29日
夜、保美が跳ねたとたん、抱ききれず美佐子、保美を逆さにテーブルの上に落として頭を強くぶつ。保美大泣きに泣き、美佐子も大泣きになき叱られる。


10月30日
夜、生花会に公民会へ母行き、三十分も経たぬ もう泣いて、辺りを見廻し、父のみ故、母を求めて泣いて怒ったとの事。


10月31日
仁、美佐子交替で一日中お子守り。両手で盛んにいたづらが出来る。母の顔を見ると、甘へて鼻ごえを出す。






         
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